検索窓
今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:102,812 hit

27 ページ27

「……でも、分からないなあ、お嬢サン」

『何、をっ!』


後方に跳びながら答える。

何か様子が変わったか?、と一瞬目を向けると、男は​────


「​一体キミ、何に怯えてんの?」

『………!』


其処にあったのは敵意でも憎悪でもなく、只々失望したような光を目に宿していた。
蛇は凍った海面で蹂躙しつつも、本人はその転落防止用の柵の上で私を見詰める。

真っ直ぐに、真っ直ぐに。私の胸の内を探るように。


「…宝の持ち腐れ、って言葉を其の儘具現化したようだね、君」

『…っ、私は…!』

「それ程迄の力を持ちながら、一体何故磨かない?」


心臓の鼓動が速くて重い。手足が急速に冷えていく感覚がするのは、自分を取り巻く冷気のせいじゃない。

視線に射抜かれる。嗚呼​───氷塊が、的を外して砕け散っていく。


「ボクの勝ちだ。ボクを殺す気できてたなら、キミはきっと勝てたよ」

『​……っ…!』

「臆病者」


氷よりも冷えた声が、無遠慮に心に刃を突き立てる。
自分の足まで凍らせたかのようにその場から動けなくなって、私を睨む一匹の蛇をただ呆然と眺めていた。

チロチロと舌を出して。真っ赤な瞳が、怯えた顔をした私を映し出している。
その蛇を先頭に、背後には凍った部分の海面を埋め尽くしそうな程の蛇の群れ。

​───嗚呼これ。私の、負けだ。

そう思った、瞬間だった。



「おいおい、マフィアの縄張りで随分な夜遊びじゃねェか?俺も混ぜてくれよ、なァ?」



声が、した。

闇をも切り裂いてしまいそうな、低い、凛とした声が。


『​……っ貴方は…!』


黒い帽子、黒い外套。全身が黒に包まれた一人の男​────ポートマフィア五大幹部、重力遣いの中原中也だ。有名人だから資料で見たことがあるし、何度もその名前を耳にした。

そんな男が、目の前で宙に浮いて、私と蛇遣いの男を交互に睨み付けている。

氷遣い、蛇遣い、重力遣い。三人の視線が、交わる。


「此処はポートマフィアの縄張りだ。夜遊びなら他所でやれ。…それとも」


ぶわ、と膨れ上がった殺気は中原さんのもの。

その殺気を孕ませた、ドスの効いた低い声で云う。


「……俺が相手してやろうか?あァ?」

『……!』


怖い。蛇遣いの男よりも、今はただ、中原中也という男が怖い。
流石はマフィアと云ったところか​───蛇遣いの男よりも威厳がまた違う。

28→←26



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (285 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
409人がお気に入り
設定タグ:文スト , 文豪ストレイドックス , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。