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「……でも、分からないなあ、お嬢サン」
『何、をっ!』
後方に跳びながら答える。
何か様子が変わったか?、と一瞬目を向けると、男は────
「一体キミ、何に怯えてんの?」
『………!』
其処にあったのは敵意でも憎悪でもなく、只々失望したような光を目に宿していた。
蛇は凍った海面で蹂躙しつつも、本人はその転落防止用の柵の上で私を見詰める。
真っ直ぐに、真っ直ぐに。私の胸の内を探るように。
「…宝の持ち腐れ、って言葉を其の儘具現化したようだね、君」
『…っ、私は…!』
「それ程迄の力を持ちながら、一体何故磨かない?」
心臓の鼓動が速くて重い。手足が急速に冷えていく感覚がするのは、自分を取り巻く冷気のせいじゃない。
視線に射抜かれる。嗚呼───氷塊が、的を外して砕け散っていく。
「ボクの勝ちだ。ボクを殺す気できてたなら、キミはきっと勝てたよ」
『……っ…!』
「臆病者」
氷よりも冷えた声が、無遠慮に心に刃を突き立てる。
自分の足まで凍らせたかのようにその場から動けなくなって、私を睨む一匹の蛇をただ呆然と眺めていた。
チロチロと舌を出して。真っ赤な瞳が、怯えた顔をした私を映し出している。
その蛇を先頭に、背後には凍った部分の海面を埋め尽くしそうな程の蛇の群れ。
───嗚呼これ。私の、負けだ。
そう思った、瞬間だった。
「おいおい、マフィアの縄張りで随分な夜遊びじゃねェか?俺も混ぜてくれよ、なァ?」
声が、した。
闇をも切り裂いてしまいそうな、低い、凛とした声が。
『……っ貴方は…!』
黒い帽子、黒い外套。全身が黒に包まれた一人の男────ポートマフィア五大幹部、重力遣いの中原中也だ。有名人だから資料で見たことがあるし、何度もその名前を耳にした。
そんな男が、目の前で宙に浮いて、私と蛇遣いの男を交互に睨み付けている。
氷遣い、蛇遣い、重力遣い。三人の視線が、交わる。
「此処はポートマフィアの縄張りだ。夜遊びなら他所でやれ。…それとも」
ぶわ、と膨れ上がった殺気は中原さんのもの。
その殺気を孕ませた、ドスの効いた低い声で云う。
「……俺が相手してやろうか?あァ?」
『……!』
怖い。蛇遣いの男よりも、今はただ、中原中也という男が怖い。
流石はマフィアと云ったところか───蛇遣いの男よりも威厳がまた違う。
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時