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───月光に照らされたアスファルトの上に、二人分の影が並んで歩いている。
『すみません太宰さん…貴方は普通に朝から仕事なのに…』
「いーの。私眠くないのだし。寝ないまま布団に寝転がるより君といるほうがずっと良い」
『そ、そうですか…』
今日は本当に、星空が美しい夜だった。
二人で見上げては、「綺麗だねえ」なんて言葉を交わしながら帰っている。
然しぼんやりとさっきのことを思い出しては、私は俯いて小さく零した。
『…如何して、私がこの力を持ったんだろう』
「……」
両掌をくっ付けて、小さな氷の花でも作ってみようと思ったが、歪な形に変わっていってもう見たくないとすぐに辞めた。
さっきはあんなに上手く使えていたのに、今ではもう簡単なもの一つ作れやしない。
──本当は、もっと違う異能力が欲しかった。
彼みたいに、傷も付けられないような力を。
否。私には異能力という存在さえ、身に余ってしまうのだから要らないのかも知れない。
「…矢っ張り君は人を傷付けるのに向かない子だね」
急に腕を引っ張られ、気が付けば太宰さんの腕の中に。
抱き締める体温と包まれる匂いが落ち着く。真夜中のおかげか、まわりに誰もいなくて良かったと思う。
「君は、その儘でいいんだ」
『───……』
私を見詰める瞳は何処か、縋るようにも思えた。
この人は一体、私の何に、何が見えているのだろう。
私には彼の胸の内が理解出来ない。
雲が月を隠すように。
何かに心を隠してしまっている、そんな気がするのだ。
「…現実は何時だって残酷だ。…君がその力を持っているのは、ただの「偶然」で片付けられてしまうんだ」
『…偶、然…』
「だから、その力を持ち、扱う自分を責めないで」
抱き締める力が強くなる。
腕に抱かれながら、「偶然」の言葉は何故かひどくすとんと胸に落ちた。
そう。ただの偶然に過ぎないのだ。
偶然この力を持って、偶然この人と出逢った、ただそれだけ。
…けど、まあ。今考えてみれば、きっと。
『…太宰さん。私、貴方と出逢えたなら、この偶然も悪くないかなって思うんです』
眉を下げて、小さく笑ってみた。けど矢っ張り恥ずかしくて、鳶色の瞳に映る私はほんの少しだけ顔が赤い。
彼は目を見開いたあと、「あの日君を助けたのが私で良かった」、と笑い返した。
その様子を見ながら、でも、と私は続けた。
『自分の異能なのに使うのが下手って…なんだかすごく、もやもやするっていうか…』
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時