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有難うございます、と其処で通話は終了した。
溜息をつき、後ろ手で扉を閉め部屋を出る。彼に目を向けると、リビングで退屈そうにニュース番組を眺めていた。
『すいません太宰さん……私、これから仕事行かなきゃいけなくって……』
「今からかい?特務課は大変だねぇ。いいよ、片付けは私がして置くから君は支度をしてき給え」
『うう…有難うございます……』
支度と云っても別に一からでは無いから簡単だ。
再び自室に戻り、私服から仕事着に着替える。髪は整えてあるし、化粧も軽く直すだけ。
最後にリップを塗って支度を終える。
其の儘鏡をじっと見詰め、記憶を呼び起こした。
『───電話の後ろが、妙に騒がしかったような…』
胸騒ぎがした。何かがあったのではないか、と。
だが直ぐに不安を無理矢理かき消すように首を振る。
リビングに戻ると食べ切れなかったお菓子の袋を輪ゴムでとじてくれていた。
『太宰さん…本当にすいません』
「いいのいいの。君の苦労は私がよく知ってるんだから」
そう云って優しく微笑んだ。
自分の姿を鏡で最終確認。髪型もメイクもOK。何時もの私が完成した。が、映る私の表情は暗い。
『………』
「そんな顔しないの。大丈夫、また会うんだから」
私の頭をあやすように撫でる。
玄関へと向かい、私が出るのと同時に太宰さんも出る、筈だった。
決意を固め、ある物に手を伸ばす。
靴箱の上に置いた、お洒落なデザインの小物入れ。そこに入れた大事なもの。
『だ、太宰さん…っ』
「うん?如何したんだい?」
きょとんとした顔で私を見る。
手に持つのはもう一つの、銀色に輝くソレ。
私の家の、鍵だ。
それを───投げた。
「っ、と……これは…」
『あ、合鍵、とかいう、やつです……』
云い終えた途端に顔が熱くなった。
でも漸く渡せたそれに嬉しさも感じていた。
此の前彼が合鍵をくれたのだから、私も渡さねばと思ったのだ。
ずっと渡したくて、ずっと渡せなかった合鍵。
私と彼を繋ぐモノ。
「……有難う。嬉しいな」
それを大事そうに手に収め、嬉しそうに笑った。
『じゃあ、太宰さん。私もう行きますから!』
「うん。──行ってらっしゃい」
玄関を閉め、彼の姿は見えなくなった。
エレベーターで下まで降り、マンションをあとにする。
眩しい陽の光に照らされたコンクリートの上を駆ける。
『やったあ…やっと、渡せた…っ』
そんな私の明るい声だけが、通勤路に小さく響いた。
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時