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今度は彼の可愛い悪戯か、私の唇を長い指でなぞる。指先を、試しにかぷりと噛んでやった。何時もの仕返しでもある。
『……んむ。』
「……凄いな。酔うとこうなるのか、君は。何時もこれくらい素直なら良いのに。
…でも気持ちを聞き出すときに丁度良さそうだ」
『悪用、だめ絶対……』
睨むことも出来ず、急に眠気が襲ってきて瞼を閉じた。
後ろから抱き締められ、そのまま横にされる。
「接吻で目覚めせてあげるから、今はおやすみ。A」
『ん…おや、み…なさ…』
微睡みのなかで、時計の針の音と、小さな彼の呟きだけが溶ける。
目が開かない。嗚呼、今は何時何分だろう。
「………私は君のものだけど、君は私のものじゃなくていいんだよ」
頭がぼうっとして、言葉の意味は分からなかった。
けど、嗚呼。最後に聞こえたその声は、あまりにも寂しそうで。
本当なら、この時抱き締めてあげられたなら良かったのに。
だがとうとう意識は、そのまま闇にのまれていく────
* * *
夢を見ていた。
夢と云う名の、記憶を見ていた。
目の前にいる昔の私は、子供のように泣いている。
流した涙は頬を滑り、やがて小さな氷の粒となって落ちていく。
寒い、寒い。手が悴んで動かない。
嗚呼。自分の周りが凍っている。
ざざ、ざざ。こんな風に、テレビの砂嵐のように、目の前の情景が乱れる。
────『私は何時か、──で───しまう───知れ──い』
────『だって私、───ですもの』
────『──を──守れ──に──たいんで──』
手を伸ばして触れてくれた「彼」は。
本当に、あたたかかったのを、今でも覚えている。
* * *
意識が浮上していく。体が怠い。
重い瞼を開けようとすれば、唇にふと、柔らかい感触がして目が冴える。
何だろうと目を開けると、そこには。
「目が覚めたかい?御早う、A」
『───は……』
ぼさぼさの蓬髪、巻かれた包帯、整った顔立ち。
太宰さん、だ。
何で、何で。私が此処にいて、彼が隣で寝ているの。
頭を埋め尽くす疑問符。
処理落ちして、たっぷり十秒フリーズ。そして。
『きゃ、ああああああーーーー!?』
「え、ちょ、痛っ!」
拳で殴った。
熱く痛む右手で我に返る。
やってしまったと慌ててぶった所を手で抑えた。
右手だけじゃなくもう全身が熱い。なのに背中には冷や汗がどっと出る。
『やだ、嘘、御免なさい!!』
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時