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────真夜中。
ヨコハマのある場所の路地裏。夜も深いせいか、街は静かな闇に微睡んでいる。
冷たいコンクリートの壁に身体を預けて空を見上げた。月が綺麗な夜だった。
壁に包まれているからか、喧騒は聞こえてこない。
人気が殆ど無い此処が、何時もの待ち合わせ場所。
遠くの街灯が、ちかちかと流星のように瞬いた。
私達は何時もこの時間に、この場所で会っている。
秘密にしているから、こうして静かな場所で一人、待っているのだ。
手ぐしで髪を整え、腕時計に目をやる。ちくたくと動く秒針と共に、鼓動が徐々に早くなる。
だって、彼はもうすぐ現れるから。
「───やあ、こんばんは」
ぼさぼさの蓬髪と、鳶色の瞳。整った顔立ちと砂色のコート、あちこちに巻かれた包帯。
──待ち合わせ場所に現れたのは、武装探偵社の社員、太宰治。
『こんばんは。太宰さん』
そう云い返すと、彼は優しく微笑んで隣に来てくれる。
もうとっくに慣れた筈なのに、心臓の鼓動がもっと煩くなる。
待ち人は漸く来てくれた。
真夜中、何時もこの路地裏で会う。これが何時もの日常だ。
────今夜もまた、密会が始まる。
「はあ、今日も疲れた」
『お疲れ様です。…お疲れなら、わざわざ来てくれなくても良いんですよ?』
「いや。疲れているから君の顔が見たくなるのさ」
何時もこの人はこんな感じだ。
飄々として掴みどころが無い。何時も笑顔で、でもその笑顔は何処か貼り付けたようなものを感じて。
時々冷たい目をする癖に、けど私に向ける目は何時だって優しかった。
例えば私の名前を呼ぶ声とか。頭を撫でてくれる大きな手とか。そういう全てに、私はすっかり惚れ込んでしまっていた。
その上女の子が喜びそうなことをさらっと云ってくるから心臓に悪い。もう何度も会っているが、さっきのような甘い台詞だけは全く慣れてくれやしなかった。
「そういう君こそ疲れているんじゃないかい?
───なにせ、異能特務課の人間なのだから」
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お湯(プロフ) - 桜月さん» わわ、ありがとうございます…!1話から…!とても嬉しく思います!たくさん感想をくださりとても幸福です。こちらこそありがとうございました……!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - 櫻宮麗子さん» これからの彼女たちに幸福があるといいですね…!読んでくださりありがとうございました〜!! (2019年9月9日 17時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - 完結おめでとうございます!1話からとても素敵な作品だなと読ませて頂きました!最終回の感動と終わっちゃうんだなぁという寂しさが…!お疲れ様でした!もし次回作などあれば、楽しみにしてます!ありがとうございました!(*^^*)長文失礼しましたっ! (2019年9月9日 16時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 最終回、おめでとうございます!救われた彼女がこれからどうなっていくのかが気になります・・・!また彼女たちに会えることを楽しみにしていますね、本当にお疲れ様でした! (2019年9月9日 8時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - ゆきんこさん» ありがとうございます…!更新が遅れて申し訳ありませんが、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです(*^^*)更新精一杯頑張ります…! (2019年8月27日 22時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2019年6月2日 10時