知らないから ページ9
我が探偵社に猫さんが来て四日が経った、ある日の昼下がり。
「太宰とA。あの猫を引き取りたいと申し出た女性が来たぞ」
『本当ですか!?』
「嗚呼」
そんな訳で、私は上司を起こす事になった。
『太宰さん、起きろください』
「んー、後五分〜」
然し、待ち人がいるので悠長な事は云っていられないのだ。
だから私は太宰さんの嫌いな物で__
『太宰さん、今度は猫じゃなくて犬拾ってきますからね?』
「今すぐ起きます」
太宰さんに勝った、なんて事を思いながら、引き取り人の女性の元へ向かった。
『初めまして。三島Aと申します』
「初めまして。私は平岡と申します。
その、貼り紙を見て捨て猫を引き取りたいと思いまして。」
平岡と名乗った女性は優しく微笑んだ。
年上で、美人な人だった。
然し、こんなに美人では若しかしたら―――…
『飼い主が中々見つからなくて困っていたんです。ありがとうございま』
「綺麗なお姿に思わず見蕩れてしまいました。私の名は太宰。太宰治と申します。
貴方、もしよろしければ私と心中を」
『すいません私の上司なんで気にしないで下さい』
頭を思い切り叩き、途中で言葉を無理矢理に止めた私。
…上司の頭を叩いたとか、私は気にしないぞ。
この猫を見るのは之でもう最後だ。
私は猫が入った段ボール箱を渡した。
心の中で、幸せになるんだぞ、と云ってやった。
その子猫を見て平岡さんは嬉しそうに笑い、
「ありがとうございます。大切に育てます」
と云った。
こんな優しい人に引き取られるんじゃあ、猫もきっと幸せになれるだろうに。
では、とお辞儀をして女性は帰って行った。
姿が見えなくなるまで見送っていた私は、
『…寂しくなるなあ』
と呟いた。
そして太宰さんの方へ振り向き______
『こっの莫迦上司!心中魔!』
「酷い!」
苛立ちが治まらない。
こんなにも怒っているのに、太宰さんが何処か嬉しそうな顔をしているのは気の所為だと信じたかった。
「なぁに?私に嫉妬?」
『そんな訳ないでしょう!太宰さんなんて大きら――…』
…そう云いかけるが、私は言葉に詰まる。
全然仕事なんてしやしないのに。
私の心を乱してばっかのに。
それなのに何故か、私はこの人のを「嫌い」とは云えないのだ。
「きらー?」
『………っ。…嫌いじゃ、ないです』
…知らない。
顔を手で覆い、変な唸り声をげる上司なんて私は知らないから。
408人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時