【文スト】太宰さん、仕事しろください。

『希望のカタチ』 ページ46

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自分が思うよりも遥かに、彼女は強かった。

真っ直ぐに自分を見つめる瞳は、太陽のようにただ眩しくて。

目を逸らすことなど、出来なかった。


強かった、というか。強くさせたのかも知れない。
あの黒くて小さくて、大嫌いな元相棒が。

三島Aという人物を、根本から変えさせた。

恐ろしい奴だと思う。ずっと一緒にいた私が出来なくて、出会ったばかりという表現にも満たないような存在の人間が、ああまで人を変えさせる力があることが。


触れられた指先のあたたかさを、今でもハッキリと覚えている。
凍った心を溶かし、心の中にあった異物を全て崩していくような。



綺麗だと思った。

細い指先で、憧れるものへと手を伸ばそうとすることが。

底にあるのが例えエゴでも、汚れた感情だとしても、それでも抗い、藻掻く姿が。それが、綺麗だと思った。

美しい在り方に、恋をした。



笑っている。目の前で、彼女が。

嫌うべき本心を受け入れて、三島Aが、笑っている。


………それだけで、救われた気がしたのだ。



『…好きですよ、太宰さん』。


告白と呼ぶには余りに小さい言葉が聴こえた。

残ったのは敗北感で、然しそれは何処までもあたたかい。

だってこんなの、どうしたって私の負けじゃないか。
目の前の少女に、私は敗北したのだ。笑える程の、完敗だ。



​────今の自分の気持ちに名前を付けるのなら、間違い無い。
「幸せ」、と呼ぶのだろう。



「………私も、君が好きだ」



小さな独り言は、彼女の髪を大きく揺らす潮風に飲み込まれていった。



​────『太宰さん、仕事しろください！』



そう云って、悪戯っぽく笑うA。


過去の愚かさを背負う意思と、前に進もうとする強さ。

全てを胸にし、彼女は新たな道を歩むのだ。




『太宰さん​────』




嗚呼。



もし希望に形があるのなら、きっとそれは、こういう形をしているのだと思う。









『希望のカタチ』 ＊ 終わり

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