それでも傍に ページ43
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『違う!貴方は何も関係が無い!手を下させた!?勘違いしないでください!手を下したは間違い無く過去の私の意思で、決して貴方の決断では無い!』
怒鳴る──では無く、叱る、の方が近いのかも知れない。
自分を責める彼に対して。
叱り、否定をしながら。
互いに眉を立てて、昂る感情をぶつかり合わせる。
太宰さんは息を何度かついて、絞り出すように言葉を吐き出した。
「…だって、虫がよすぎるじゃないか。絶対に、君は私を赦してはいけないと思ったのに───。あの時だって、君は拒絶もせずに、「自分は大丈夫だ」と笑った。…あの惨めさが、君には理解できるか…?」
『いいえ、出来ません。しようとも思いません』
『私は貴方の望む通りの返事はしません。だから、私は貴方を恨まない』
ならば、私が拒絶をするのなら、彼では無く彼の言葉を拒むべきだ。
「…私は自分を、赦せない」
『私が貴方を、赦します』
「私は君を救えなかった」
『私は貴方に救われた』
「───私は罰が、欲しかった」
『私は罰を与えません。然しそれは、貴方への罰となるでしょう?』
微笑んだ。強く、溶かすように微笑んだ。
瞳に映る彼は、嗚呼何処までも────私に似ている。
鏡を見ている気分だった。
彼は過去の私に見える。然しその自分も、ほんの少し前に、中原中也という男に救われた。
救われた私が、今度は、目の前の彼を救わなければならない。
思っていたよりも子供で不器用で、たった一人の、私の上司を。
『私は貴方の孤独を埋めることは出来ません。貴方はきっと、一生孤独を抱えて生きていく。それでも、傍にいることは出来ます』
「────」
『貴方が道に迷っても、私では道を教えることが出来ません。それでも、貴方と一緒に迷うことは出来ます』
「────」
『それでは、それだけでは、いけませんか?』
「────」
……嗚呼、やっと、笑ってくれた。
「…私の負けだ、Aちゃん」
「嗚呼、全くもう、君って子は本当に───」
『っわ!』
伸ばされた手に引き寄せられ、私の身体は彼の腕の中へ。
ぼさぼさの蓬髪が首にかかって少しだけ擽ったい。
伝わる彼の体温が心地好くて、目を瞑る。
だから、彼が今どんな顔をしているか、私は知らない。
「…ありがとう」。そんな優しい声が聴こえたのと同時に、小さな宝石のような雫が、ぽたりと首筋を蔦った気がした。
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お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時