空色の瞳 ページ37
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云っても、いいのだろうか。
元相棒の彼なら、それともきっと───、
『…過去の、太宰さんを見ました』
「…!」
中原さんは、その空色の瞳を大きく見開いた。
数秒黙ってコホン、と咳払いをした後、「…続けろ」という固い声が聴こえた。
『私は、太宰さんに復讐心を持つ者に誘拐されました。その女は、自分の過去を他人に見せる異能力を持っていたんです。
それで、彼が人を殺す様子を見せられました』
「…」
『なんて、冷たい目をしているんだろう───そう思いました。最初は凄く怖かった。怖かったのに、それのに───
彼が過去に人を殺していようが、私にはどうでもよかった』
過去なんて知らない。今の太宰治がいれば、それだけで充分に値するって。そういう事でしょう────女の言葉が再び、脳の中を蹂躙する。
嗚呼、確かに。
今になって漸く、私はその言葉に納得しているようだ。
『私には関係が無いから知らない、と──今の太宰さんがいれば充分だと。私はそう思ってしまったんです。例え彼が、どれだけ人を殺していたとしても』
私はただ、あの人に今のままでいて欲しいだけ。
「…」
『私は、私を誘拐した女を殺しました。それだけでは無く、その人の仲間達も、皆私が。…あの人達は、特に何もしていないのに』
『探偵社を守るために殺しただなんてただの口実です。
守るために──では無く、憎かったから殺した。
只々憎かった。
私の心に踏み込んで、混ぜっ返したのがどうしても許せなかった。
見透かして核心を突いて、己の真実を気付かされたのが嫌だった』
唇から出る言葉一つ一つが、吐き出す様に出てくる。
声が震えていた。
吐き気がする。頭が痛い。
固く握った手に、爪が喰い込む感覚がした。
「…なるほどな。使命より憎悪で人を殺した、か」
フェンスにもたれかかったままの彼の表情は、俯いていて見えなかった。
私があの人達を殺す事によって、探偵社が救われたのはたまたまなのだ。
探偵社がかかっていようが無かろうが、あの同じ台詞を云われたら間違い無く殺していただろう。
改めて自分の心を口に出してみると、なんともまあ、こんな酷い生き方をしていたものだと思う。
これが、今まで見て見ぬ振りしてきた私の末路。
なんだ、なかなか笑えてくるじゃないか。
「なあ。手前は、自分の事も憎いか?」
『───ぇ…』
私を見据える、空色の瞳。
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お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時