置き去りの言葉 ページ34
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自分の意思。
自分の感情。憎悪と、殺意で、人を殺した。
今朝私の異能力で鏡が割れたのも──あの幻覚に核心を突かれたく無かっただけで。突き詰められるのが嫌だっただけで。
そこに意思があるならば、それはもう事故ではない。
事故だったらどれだけ良かっただろうか。
「仕方が無い」、で済む話だったら、どれだけ救われただろうか。
何処までも狡い、私という人間。そんな自分に、吐き気がする程腹が立つ。
『だから私は、自分が嫌い』
一人の部屋では、否定をしてくれる人も答えてくれる人もいなかった。
ただ虚しく、尾を引いて小さく反響するだけで。
私への"嫌い"は、きっと過去にも未来にも、永遠に切り離せない存在なのだろう。
私の異能力でも、「嫌い」を切ることは出来ない。
…気を紛らわせるために考え事をしていたものだが、体調はやっと少しは落ち着いてくれたらしい。
治った訳じゃないが、今朝よりは大分良くなった。
ちらりと窓の外を見る。
今まで気が付いていなかったが、今日はどうやら雨らしい。
分厚い灰色の雲がしくしくと泣いている。
…泣き虫ね。つい此の前も泣いたばっかじゃない。
そう心の中で悪態をつきながら、重い体を起こす。起こした所で、やる事なんて無いけれど。
白い無機質な壁にかけられた時計は、昼の十一時を指そうとしていた。
携帯電話を取り出して、太宰さんのアドレス帳を開く。
電話やメールの一本くらいは、矢張り彼にも入れた方が良いだろうか。
話すのはまだ少し辛いから、メールの画面へと切り替える。
釦を押す手が止まる。カタカタと小さく、指先が震えていた。
どうしても、昨日の事がフラッシュバックしてしまって、文字を打つことができないのだ。
一体、私は何を云えばいい?
『体調は大分良くなりました』とか、そんな報告みたいな言葉じゃ、何だかかえって違うだろうし───そもそも、本当に云わなくちゃいけないのはきっと、この話じゃない。
あの絞り出す様な声で、泣きそうな顔で、頼むから云ってくれとあの太宰さんに懇願されたのに───私はそれさえも拒んだのだ。
…本当は、汚れきった今の心で、私はあまり彼と会話はしたくないだけなのかも知れない。
結局一文字も書かず、携帯電話をテーブルに置いた。
だから───、
置いた瞬間、携帯電話が震えて"太宰治"という文字が表示されても、私は決して応える事はしなかった。できなかった。
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お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時