【文スト】太宰さん、仕事しろください。

一人の蛇 ページ31

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​────あの後、家に帰ってすぐに眠りについた。

シャワーは浴びたものの、食欲は無いからと口に何も入れずに只睡眠を貪った。
あれだけ眠っていたのに、体はまだ睡眠を欲していた事に驚いた。

目が覚めて時計をちらりと見ると、設定していたアラームよりも可也早く起きてしまったようだ。

…そりゃそうか。

心の底から納得して、ベッドを降りようとしたが​───、


『…気持ち悪い』


止まない吐き気と頭痛。
眩暈もする。

それでも地面に足を付けてふらふらと歩き出す。
一歩、また一歩と進む度、痛みが更に酷くなっていく感覚がする。

痛い、痛い、痛い。

そんな言葉がぐるぐると、意味も無く頭の中を駆け回る。

おぼつかない足取りで洗面所に行って顔を洗う。
冷たい水が心地良い。

鏡にに映る自分を見れば、それはなんとも不細工で。
あれだけ寝たのに取れない隈、荒れた唇。
おまけに顔色も頗る悪い。

何時もなら此処で長い髪を結んでいるが、今日はその余裕も体力も無かった。

…駄目だ、こんなんじゃ。そう心の中で呟いて、両手で自分の頬を思い切り引っ叩く。

じっと、鏡の中の自分を見つめる。

『…』

自分の瞳と、目が合っている。

その、瞬間。


「ヒトゴロシ」

『──ッ！？』



​────突如として、頭の中で声が響いた。

大嫌いで、なんとも憎いあの女の声が。


鏡を見た。
自分の真後ろに、女が立っている。

…幻覚を見ている事は明らかだった。けれどもそれ以上に、幻覚を見ている事自体に動揺を隠せない。



「貴方は、あの人間達をこの手で殺した」

『煩い！それはお前が探偵社に手を出そうとしたからだ！』



女の白い手が、するりと私の首へと伸びる。



「貴方の手は汚れてしまった。それなのに、その汚れた手を着けて探偵社へ行くの？」

『煩い！全部お前のせいだろう！？』



女が吐く言葉一つ一つが、蛇の様だった。
蛇の様にとぐろを巻いて、絡み付いて離さない。鏡に映る、その瞳でさえ。

蛇に睨まれた、蛙。

睨まれている。一匹の、ヒトの形をした蛇に。

動けない。指一本も。



「貴方の正義は全て、皆のためでは無かった。ぜーんぶ、自分のため」

『煩い…煩い煩い煩い！出ていけ！私の中に！入ってくるな！！！』



漸く動いた両手で耳を塞いで叫ぶ。

パリン、と鏡が音を立てて割れた。


『っ痛…』


目の前にあった鏡が、今は破片となって散っている。

破片が刺さったのか、私の指からだらりと血が流れていた。

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