作り笑いで ページ30
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ゆっくりと、私は彼へ手を伸ばす。
いつか私にしていた事を、今度は私が、彼の頭を優しく撫でる。
子供をあやす様に、ゆっくりと、優しく。
「…、…は」
彼の息が漏れた。そのまま目を見開いた。眉間に皺は、寄ったままだけれど。
精一杯の笑顔を浮かべてみる。
私の顔を見て、一瞬泣きそうな表情を見せた。
───私は、気付いてしまった。
彼がこんなに焦っているのは、彼が私に行かせてしまった事を悔やんでいるのだ。
判断を誤った、と。
責任を感じているのだ、彼は。
…嗚呼、貴方は、本当に、何処までも。
…優しすぎる。
私が思っているよりも、彼は強くなんてなかったのだ。
ぐらり、ぐらりと私の中で何かが揺れる。揺すぶられている。
それでも。それでも、これだけは云わ無くては。
『…大丈夫。私は大丈夫ですから』
「…っ」
安心して下さい、と。
───だからどうか、そうやって自分を責めないで。
精一杯浮かべた笑みが、彼の瞳に映っている。
なんとも弱々しい笑みだった。下手くそで、不細工な笑い方。
私は少し、他の人と違う物を知っただけ。なりたかった者に、辿り着けなかっただけ。"ええそうよ"、三島A。
ただ、それだけ。
過去に彼が人殺しをしていようが──私はもう。
彼を、愛してしまっていたのだから。
だから──太宰治さん。
『ありがとうございます』
私なんかのためにそんな事を思ってくれたのが、私は心の底から、嬉しく思うのです。
最後にまた一つだけ笑って、とん、と軽く彼の胸板を押し返した。
すぐ近にあった距離が離れていく。
…彼がどんな表情をしていたのかは、私が目線を逸らしていたから見えなかった。
私もどんな笑い方をしていたのか、それも分からないまま。
太宰さんはただだらりと腕をぶら下げてその場に立っている。
何も聴こえない。
互いの沈黙を破る事は無かった。
目線は、相変わらず交わらなかった。
ベッドから降りて、医務室を後にする。
後ろ手で扉を閉めた途端──、
『…っ、』
堪えていた激情が、じりじりと湧き上がった。
目が熱くなる。
視界が、ぼやけていく。
もういっそ、感情全て死んでしまったら良かったのに。
あのエゴを自覚した時、己の真実を知った時、人を殺してしまった時。
中途半端に、感情を残して帰ってきてしまった。
私の心はもう死んだものだと、そう思ったのに。死にきれなかった。
瞬きと同時に、冷たい涙が頬を蔦った。
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お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時