悲しい夢 ページ28
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_____酷い夢を見ていた。
今では遥かに遠く儚い、悲しい
「如何して君は、探偵社に入ったんだい?」
珈琲カップを片手に、太宰さんは私を探る様に聞いてくる。
その言葉は今の私には苦しい程、胸が痛くなる。潰れそうな程、重く伸し掛る。
「──に、なりたいんです」
あの時の私はきっと、目指す物があって、だからこそ笑って答えられたのだろう。
それを、自分自身で踏み躙ったのだから皮肉な話だ。
数々の記憶が瞼の裏で、ゆらゆらと揺れている。
届かないと分かっていた。私にはそれはできないと、頭では理解していた筈なのだ。あんな異能力を持っていると気付いたあの日から、ずっと。
それでもと足掻いて、踠き、底へ底へと沈んでいく──それが私、三島Aなのだ。
そろそろ意識もハッキリとしてきた。
さあ、A。今度こそは、目を逸らさずに───
# # #
バチリと、鳶色の瞳と目が合った。
その次に飛び込んできたのは知らない天井──ではなく、武装探偵社の医務室の白い天井だ。
見慣れた景色である。
『お、おはようございます…』
「おはようAちゃん。何処か痛い所はあるかい?」
『いえ、特に有りません』
腕や指、足も不通に動く。傷跡も何も無い。
答えた私に太宰さんは、「そうか、それはよかった」と返した。
体は少し怠いが、別に何とも無い。…ただ、嫌な夢を見ていた様な気がするが。
「さて。起きたばかりの君に残酷な事を聞いてやろう。
──何処まで覚えてる?」
その言葉に、色々な記憶が蘇った。
悍ましい女の言葉、そして、冷たく転がった数々の死体。
…嗚呼、そうか。私はこの手であの人達を___。
…本当は此処で取り乱すべきだろう。けれども私の心は、何処までも静かで、やけに冷静だった。
心が麻痺しているのかも知れない。
『覚えています。今思い出しました。全部』
「…そうか。じゃあ、あの後の事は覚えているかい?」
『あの後?』
「私が君を見付けてからの、記憶」
────「帰ろう、…Aちゃん」。
太宰さんの言葉が、頭で反響した。
私の姿を見て、太宰さんは「帰ろう」と云ったのだ。
その表情は酷く痛ましげで、私を哀れむ様にも見えた。
それが、余りに痛ましげだったから。
だから私は、泣きそうになったのを覚えている。
自分の事なのに──こう云ってみるとまるで他人事みたいだ、なんて
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お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時