見たくないもの ページ16
「探偵社の情報を私に教えて欲しいのだけれど」
『そんな易々と教える莫迦がこの世にいるとでも?』
色香を纏った女は、親しげに聞いた。
虫唾が走りそうになるその態度に敵意を向け、私は鼻で笑って返す。
女の名前は知らない。
互いに名を名乗らない。
それで、いいのだ。
こんな女の名前なんて、私だって知りたくもないのだから。
「なら拷問はどう?」
『……っ』
「ふふ。冗談よ。まだ貴方から知りたい事があるもの」
拷問、と口に出した時の女の瞳の冷たさに思わずゾッとした。
拷問でも私はきっと情報を吐かないだろう、とは思うが、それに確信は持てない_____痛みは最も自分が嫌うものなのだから。
冗談、という単語で何処か安心した自分に嫌気がさした。
女はゆっくりかがみ、目線を私に合わせて云う。
「貴方は、あの男の過去を知っているの?いいえ。過去だけじゃなくて、本性も」
『知っている』
____そう。全て、知っている。
私が部下になって、あの人はすぐに教えてくれたのだから。
それが何故かは分からないが、それでも私は決して引いたりはしなかった。
私の答えが以外だったのか、合わせられていた目が見開かれる。
女は眉を顰め、「…分からないわね」と静かな音で吐いた。
先程とは全く違う雰囲気に、私は驚いた。
「あの男の過去は汚れている。それなのに、貴方は如何してついて行こうと思うの?」
『…そんなの、』
――――云いかけてやめた。
こんな奴に、私の気持ちが分かる筈がない。
「…教えてくれないのね。残念」
黙り込んだ自分を見て溜息をついた後、女は人差し指で私の額に触れてきた。
その行動に嫌な予感を覚え、咄嗟に睨み付けた。
『何を…!』
「見せてあげる」
そう耳元で囁かれた途端___目前が、チカチカと瞬いた。
『……ぁ』
白い瞬きと共に「見えた」のは――――…
『……な、んで』
見間違える訳がない。
片目に包帯を巻いた、"太宰治"だったのだ。
私の上司の姿が、脳中に流れ込んでくる。
凍える程に冷たく、文字通りの「真っ暗闇」を閉じ込めた様な、そんな瞳をしていた。
―――何故、私がコレを見ている?
ぐるぐると、回る思考。
鼓動が早まる。脳が焼ける様だ。
「これが、私の異能。
私の記憶、貴方に見せてあげたいのよ」
そう云った女の顔は、今の私には見えなかった。
――――嗚呼。コレはきっと、拷問よりも、恐ろしい。
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お湯(プロフ) - のりばやしさん» またコメントありがとうございます…!感動してくださったならなによりです!新作も頑張ります(*´`*) (2018年8月9日 19時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - もう一度失礼します!!完結おめでとうございます!!めちゃくちゃ感動しました!!話の終わらせ方が素晴らしい!!新作待ってます! (2018年8月9日 18時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - のりばやしさん» そう言ってくださり嬉しいです!ありがとうございます〜!! (2018年5月24日 18時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
のりばやし(プロフ) - 話の展開と語彙力に心を動かされます。更新頑張ってください!!(*^ω^*) (2018年5月23日 19時) (レス) id: 450ab9bd17 (このIDを非表示/違反報告)
お湯(プロフ) - すばるさん» 返信遅くなって申し訳ございません…!!ありがとうございます!!可愛い太宰さん、いいですよね…!(*´▽`*) (2018年2月23日 20時) (レス) id: 2451ee7fcd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お湯 | 作成日時:2017年10月9日 18時