弐 平穏な暮らし ページ3
,
いつのことだっただろうか。
両親の手伝いをして、兄の背中を追いかけて、仲の良い子供達と遊んで。それからー
ーーーーー
『母さん。薪、ここに置いておくよ』
「いつもありがとう。母さん助かるわ」
両手いっばいに抱えた薪を置き、手早くまとめていく。
そのあとは、洗濯、炊事、刺繍の手伝い。
やることは山のようにある。
少しでも母に楽をさせようと、手が空いたら片っ端から何でも手伝った。
「…A、とてもありがたいのだけど…たまには遊びに行っていいのよ?」
『気ぃ使わなくていいよ。やりたいからやってんだからさ』
そう言えば、申し訳なさそうにお礼を言われた。
母は体が弱いのだからそれを手伝うのは当然のことだ。
自分のことなど二の次でいい。
箱の中に花の模様をあしらった手拭いを入れていく。
こうして花を刺繍した手拭いは案外売れるもので、幾分か生活の足しになっている。
家の戸が開き、父と兄が帰ってきた。
『父さん、兄さん! おかえり』
「ただいまA。いい子にしてたか?」
『うん』
「これで怪我してなかったらいいんだけどなぁ。…また喧嘩したろ」
意地の悪い笑みを浮かべた兄が頬をつねってくる。
くつくつと喉の奥で笑いながらからかってきた。
『いてっ、引っ張るな!』
「口が悪いぞA。言葉遣いに気をつけろ」
『兄さんだって…そうだ! 兄さんが剣を教えてよ。そしたら傷なんて増えない』
「馬鹿野郎。誰がそんなことのために教えるか。自分でなんとかしなさい」
悪態をつきながらも頭を撫でる手は優しい。
そんな兄が大好きだ。
「兄ちゃんが手伝い引き受けっからさ。たまには遊んでこいよ」
『兄さんいつもの用事は?』
「父さんはいるけど俺は夕方には出るよ。明日からはいてやれるからさ」
『…約束だよ?』
「はいよ。ほら、行って来い。あんまり遅くなるなよ?」
『うん。行ってきます!』
袖を括っていた紐を解いてから雪駄を履き、勢いよく戸を開ける。
今日が終われば明日が来る。
明日になったら兄とたくさん話をしよう。そう考えただけで心が踊る。
「…しかし、あの家も大変だな。父親が亡くなってからも母親一人で働いているんだろう?」
「違うよ。あそこの家は兄貴が母親を手伝ってんだよ。それに、父親が死んでからは次男坊も働いてるんだと。……Aは遊びには行かないで他所様の家の手伝いしてんのさ。まぁ、感慨深いこった」
,
22人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
S,JSB,K(プロフ) - K.yさん» コメントありがとうございます。今回は変更したい箇所が幾つもあったので作り直させていただきました。これからも更新しますので見ていただけると嬉しいです (2019年10月25日 3時) (レス) id: 192ee57338 (このIDを非表示/違反報告)
K.y - 前回読ませていただいたのですが、また書いていただけて嬉しいです。更新楽しみにしてます!! (2019年10月22日 5時) (レス) id: 19d59073e5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ