拾伍 欠落 ページ16
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暫く山を登っていると、おかしなことに気がついた。
山は前が見えない程吹雪いているというのに、体はほとんど寒さを感じていない。
雪崩が起きたときもそうだ。
足場が崩れるよりも早く地面を蹴り、木に飛び移っていた。おまけに息も切れていない。自分の体じゃないみたいだ。
何かを忘れている。いろんな感情が体の中をぐるぐると渦巻いている。
視界が明るくなると、開けた場所に出た。
家の前には、実弥が壁に凭れるように立っていた。
「…随分早かったなァ」
『……遅いんじゃないの?』
「いや、」
懐中時計を取り出し、こちらに向ける。まだ半刻も経っていなかった。
「…思った通りだなァ」
『何が…そうだ、ずっとおかしかった。走ってるのに息も切れないし体が勝手に動いた。寒さも感じなかった』
話せば話す程、眉間に皺を寄せる。
何かおかしなことを言っただろうか。
『爺様はいないの? どこ?』
「! …テメェ、それも忘れたか」
『っ、覚えてるよ! 兄さんと離れてから五年も爺様とここで暮らしてた!』
「……爺は死んだ。テメェは自分の目で見たはずだろォが」
そんなはずない。
急いで家の中に入ると、壁や床に血がこびりついていた。
文机の引き出しを開け、日記を取り出して頁を捲る。
日記には、確かに自分の字でその日の出来事が綴られていた。
頁を飛ばして、手がかりを探す。
皺や涙の跡が残った頁を指で辿る。
【爺様が化け物に殺された。】
『…ひっ、!』
日記が音をたてて、床へ落ちる。
思い出した。今日までに起きたこと。
あんなことがあったのに、どうして忘れていたのだろう。
頭の中で鮮明に思い出される。
全てを失った恐ろしいあの夜のことを。
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S,JSB,K(プロフ) - K.yさん» コメントありがとうございます。今回は変更したい箇所が幾つもあったので作り直させていただきました。これからも更新しますので見ていただけると嬉しいです (2019年10月25日 3時) (レス) id: 192ee57338 (このIDを非表示/違反報告)
K.y - 前回読ませていただいたのですが、また書いていただけて嬉しいです。更新楽しみにしてます!! (2019年10月22日 5時) (レス) id: 19d59073e5 (このIDを非表示/違反報告)
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