プロローグ−ハジマリ− ページ1
月明かりが照らすある春の夕方｡日が落ちるのこそ遅くなってきたものの、まだ冬の寒さが残る
4月だった。その空の下の、そんなに立派ではないお屋敷の冷え冷えとした長い廊下に、一人の少
女がたたずんでいた。少女は淡い空色のワンピースを身にまとい、さらさらとしたつやのある長い
黒髪を小さな窓から吹き込む風になびかせていた。少女は固く口を縛り､目はどこか寂しげだった。
少女は、何番目かのドアの前に立ち、ノブに手を触れ､ゆっくりと回した。
｢･･･うわあ･･････おばあちゃん、なにそれ!どうして､あたしを呼び出したの？｣
見ると、その部屋は書斎のようで、そこにはすでに、50代程だろうか｡黒色の着物を着て､紅の帯
を締め、花の髪飾りをつけた女性が､少女に手招きした。
｢こっちへいらっしゃい。｣
どうやらこの二人は、家族関係のようだ。女性の手の中には、なにやら箱のようなものがあった。
｢これはね、･･･代々この萩乃家に伝わる、伝説の萩花ペンダントだよ。｣
｢はぎかぺんだんと･･･?｣
女性は、箱を開けた。中には、確かにペンダントのようなものが入っている。
｢詳しい事は、あなたが大きくなってから話すけれど、大切に身に付けておきなさい｡でもこれを持
っていることは、重要なことなの。そのことを忘れ無いで｡一族の家宝だし､あなたは選ばれたんだ
から。｣
｢いちぞくのかほう･･･?｣
まだ9つの少女は、首を傾げていたが、大切なことなのだ､ということだけは理解した様子だった。
｢頭を少し低くしてごらん｡･･･ほら。｣
その次の瞬間､少女のその細い首に、薄い桃色に白い花模様の入ったしずく形の石が、黒いチャー
ムでつり下げられていた。
｢うわあ！おばあちゃん、ありがとう!大切にするからね！｣
そう言った少女の顔は、先程とは比べものにならないほど、光に満ちていた｡
その少女の胸元には、桃色の光が輝いていた。
続く
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作者名：桜芽 サキ | 作成日時：2017年11月15日 18時
