第58話 ページ14
クルーウェル「気を付けて帰れよ、仔犬」
僕は一礼済ませて、魔法薬学室の扉へ向かっていく
下らない事を考えながら
薬みたいに人が死なないようにするには結構色々緻密にやらなければならないから錬成の難易度が上がる
僕そういうのがしたいかな
でも元気な人が毒を食らって不調を起こせばすぐに判別つくだろうし程度も客観的に「こっちの毒が強いね」って分かる反面で、健康体に薬が効かないように薬がそれ相応に価値があるのかなんていうのは判別が難しいだろう
それに薬って前提としてその人が毒持ってたり病気持ってたりしないといけないし、実験体を用意するのだって大変
まして薬が効く前の状態を知らなければその対象を元通りにするというのは一体どういう事になるのか話が複雑になってくるというものだろう
だからまぁ寮長の決め方として毒の錬成が上手い事、要するに人殺しの才能が強い頭の切れる存在かどうか判別するのに手段として毒を選ぶというのは理にかなっているのかもしれない
でも毒より薬の方が実用性あるし、どっちかって言うと良い寮長かどうかを判別するという意味では薬の方がよほど理にかなってるのに
でもそのために壊れている実験体を敢えて作るのも気が引けるよな
何か思うようにこの世の中は出来ていないね
結局僕は流れに任せるしかないのだろう
でもやりたい事は別に惜しむ必要もないじゃん
今日は打ち上げパスして、図書館で薬の勉強でもしようかな
『…ッ…！！』
ドンッ！！
？「…」
突然僕は扉の向こうで誰かとぶつかる
扉の近くに誰かいるなんて思っていなくて、おまけに余計な事を考えていたせいで全然気が付かずにぶつかってしまったのだ
扉の近くと言ったって、本当に目の前
魔法薬学室に用があって扉の目の前に立っていたと考えるのが妥当な距離に相手はいたと思える
そんなの気にしてる余裕は当然僕にはないのだが
『…すみません…』
その反動で僕はその場に転んでいて、下からぶつかってしまった相手を見上げて謝る
こっちの過失を分かっていて、素直に謝っただけだ
でも相手の反応は僕の思っていたものと違った
というより気付いていなかっただけだ
僕がこの物語に組み込まれているという現実に
フロイド「…みつけたぁ♡」
僕がぶつかってしまった相手は、僕を見てまるで「待っていた」と言わんばかりの妖艶で嬉しそうな笑みを僕に向けていたのだった
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作者名：ユウ | 作成日時：2020年12月25日 22時
