ウチとアンタと、キミの言の葉9 (ページ24)

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第346話ページ24

監督生「…先輩は自分が昔、ある方に大阪のお好み焼き屋さんに連れて行ってもらったって話をしてくれたんです

先輩は昔話だ、って言っていて、どれくらい昔の事か伺えば「覚えていない」なんて濁されちゃいましたけど」

そない話から俺はある時空の記憶を取り返す

Aが生きていた時間の話、今まで誰かに話して聞かせた事もない本当に何の事はない「日常の一部」として消費されていく「つまらん」で普通は流されていくはずの話を

監督生「お好み焼き屋さんで、先輩は自分が何を食べているのか感覚が掴めないでいたって言っていたんです

だからあの日の自分は「雰囲気」を食べたんだって、味覚が鈍い事を暗に私に教えてくれたんです」

その話がどこまでを本当として、どこまでが信頼すべき話かは分からない

だけどその感性とその話から、ある真実に確かに辿り着く

監督生「それで、その後にまた別の日家で同じ人達と今度はたこ焼きをやったって言ってました

その時先輩は同じ粉物だから、「これはお好み焼きの具でもいけるんじゃないか」って言って周りに怒られたなんて言っていました」

簓「…！」

監督生「だけど聞いてみれば、怒られたんじゃなくて相手に突っ込みを入れてもらっただけだったって気付いたんです

2人いたうち、片方は自分を「天才だ」と言って褒めて、もう1人は「個性が潰れる」って鋭い突っ込みを入れたんだと

そんな日常が自分は好きだった、って先輩は言っていました」

あの日自分が失ったと思っていた人間は、確かに過去の時空で生きていた

日常という「当たり前」の中に消費されていく物語の延長線上に、確かにあいつは「物語の主演」として自分なりに「楽しい」と思える日常を紡いでいた

その奇跡への感動と共に、あいつは俺といる日常を嫌ってはいなかったという事に気付いて心を動かされる

監督生「そのどちらがお兄さんの事だかは分からないですけど、何となくどっちでもしっくりくる話だから、そこにいたのはお兄さんなんじゃないかなって私は予測しています

今の先輩がどう生きているのかは分からないですけど、先輩にとってその時間はかけがえのない思い出だったんだなって気が私にはするんです

…先輩がその時、「過去は戻れない事が分かっているから綺麗なんだ」、って言ってたから尚更」

最後に少し暗い影を残して、それでもお嬢ちゃんは笑ったまま一旦言の葉を止めていた