キミとお前と、俺の見ている世界3 (ページ5)

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第99話ページ5

『…センセ！』

葵「…？」

非常勤講師のセンセを週に1回、ただ音楽の授業のある日にウチで質問しに行くためにウチは何度も捕まえた

それ以外にセンセとウチで巡り会う言い訳がないから、ウチも戦略として「生徒」っちゅー立場を利用していたんやって思う

葵「…授業は終わった

何の用だ？」

『質問っ！』

葵「…？」

『なぁ、バロック音楽って何？』

ウチは授業で習う「覚えれば良いだけ」で消費されていく言葉を使って食らいついた

流石は音楽の天才、あるいは音楽に関しては全て知り尽くしとる人間なだけあって、ウチの疑問は大概センセによって解決される

葵「…授業で言ってやったと思うが、17世紀から18世紀半ばにかけてヨーロッパにおいて発展した音楽の総称だ

これまでの16世紀のルネサンス音楽の風習を打ち破ったより感情に結びつく音を…」

『そういう事と違くて！「バロック」って言葉や』

葵「…？」

『バロックって何？』

ウチが面倒な質問をしても、音楽の事に関する知識が本物の先生は難なくウチに何でも教えてくれる

葵「…バロックというのはポルトガル語で「歪な真珠」と訳される ’barocco’ という言葉を由来にして作られた造語だ

これまでの装飾品のような余計なものに飾り立てられた音楽と比較して、形が崩れた音楽である事を表現するためにこのような言葉を選んだのだろう」

『…すご…センセちゃんと知っとるんやな

言語の事まで音楽の事やったら何でも』

葵「…

音楽の教員ならこれくらい知っていて然るべきだろう」

『センセ、またウチに聞かせて！

教えてくれておおきに』

ウチは笑て、センセの言葉も音色も何でも聞きたくなって週に一度は必ずその影を追う高校生になっていた