第106話 ページ12
ウチは音にびっくりしてそれを顔に真面目に表していたけど、音が聞こえてもそれに顔色一つ変えないセンセはウチですごいと思った
そういう世界にいるから音に聞き慣れていていちいち顔色を変えるような真似をしないのか、センセは一度指揮棒を振ると真剣な顔で最後まで真面目に音楽を奏でていた
指揮者が音楽を奏でるなんて矛盾しとる話なんやけど、センセは音楽の中にいてその音楽を指揮棒で奏でているように見えた
真面目に音楽奏でとる人間の顔色なんて、ウチにはその日見えておらんかった
葵「…出だしから言いたい事しか溢れない
まず出だしのこのBの和音、これは長調の和音で不協和音にはならないはずだが？
ホルンとユーフォニウムのチューニングが甘い」
全部の音楽を聴き終わるとセンセは初めから終わりの所までで気付いた事を全部漏らす事なく言い伝える
センセのすごい所は大体5分間の長い奏を余す事なく自分の耳で聞いて、ほんで感じた事全部を覚えとる事や
いい加減言うてるのと違くて、後でウチで知った事やけど生徒の皆が抱えとる問題を的確に正確に見抜いとる
葵「それから9小節目の入りのフルート、ここはお前達の個人の自由に奏でて良いソロパートじゃない
パートの中で音を一つに集結させろ、個人の練習に依存しきって周りの音を聴いていないのが丸見えだ」
女生徒1「…っ…はいっ！」
葵「それから12小節目
ここはお前達オーボエの入りが控えめでファゴットが出にくい
周りの音を考えて音を出すように
例外的にお前達はmf(メゾフォルテ)で演奏しても良いだろう」
女生徒2「…ッ…はい！」
葵「他にも色々あるが少し離れて24小節目のトランペット、ここでミュートを敢えて使うように譜面に書かれている理由は分かるか？
ここで音を聞こえなくするためだったらお前たちは休符になっているはずだ、音は控えるな
何も聞こえない上に次の低音が割り入って音を掻き乱しているように聴こえる」
男生徒1「…ッ…すみません」
葵「もう少しお前達は周りの音と自分の音を合わせる努力をしろ
ブラスバンドは個人戦ではない、ここにいる誰もが分かっているはずの事を敢えて俺に言わせるな」
センセは辛辣な口でそない言うて、また呆れたような顔で毒を吐き続けていた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユウ | 作成日時：2021年10月17日 18時
