第55話 ページ10
簓「…いや、今ならまだ間に合うで
死んどるんとちゃう、眠っているだけなんや
まだ起きる事はきっとできる」
俺は嬢ちゃんに元気付けるために、そして自分の気を整えるためにそう言う
簓「心拍数も安定はしてるんや
呼吸器を繋いでへんと自力では生きられんようになってもうてるけど、それでも命は繋がってる状態や」
ナオ「…まだ間に合うの…？」
簓「起こす方法が何か見当たるんねやったら、見込みはある
何でもええ、ばあちゃんから聞いてる事で起きるのに何がいるんか知ってへん？
俺も起こす方法が何なんか分からんで困ってるんや、死んではおらんけどお医者さんにもどうにもできん状況や言われてもうてな…」
そう言うとナオちゃんはやがて真剣な顔で返す
ナオ「おばあちゃんは何で自分が戻れたのかは分からないって言ってた
だけど自分が原因でその人が死んだんだって分かって、「帰って何もかも忘れたい」って思ったから帰って来れたんじゃないかって皮肉ってた
それがもし本当の話だとすれば、少しおばあちゃんには責任感のない部分もあると思う」
簓「…」
ナオ「でもね、こうも言ってた
帰るより前に、帰りたいって強い意思を働かせたその時に、誰かに「戻っておいで」って声をかけられた覚えがあるって
それがどこの誰の声なのか知らないけど、私の予想ではおじいちゃんの声だったんじゃないかな」
簓「…？」
ナオ「おばあちゃん、その当時中学校の時の知り合いとお付き合いしていたんだって
でもおばあちゃんが昏睡になっちゃって、あまりに長い事治らないからおばあちゃんのお父さんとお母さんは半分諦めてたって
でもその人だけは絶対に諦めないで、おばあちゃんの側にずっといて帰りを待っていたって」
簓「…」
ナオ「…その人が私のおじいちゃんなの
目が覚めた後も真剣におばあちゃんの話を聞いてあげて、その後ずっとおばあちゃんに添い続けて、結婚までして一緒に居続けた
おばあちゃんよりも死ぬのは早かったし私も顔を思い出す事なんてできないけど、多分その人がおばあちゃんを眠りから覚ましてくれた王子様なんじゃないかなって私思う」
そう言ってナオちゃんは自分の服の胸辺りをぎゅっと握りしめていた
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作者名：ユウ | 作成日時：2021年7月31日 13時
