トップバッターはこの俺だああ！ ページ1
高校二年の春。一人の少年が一人の少女に恋をした。
少女は、不思議な人だった。
人と関わることをせず、人に見られることをしなかった。
彼女は、クラスの、学校の誰とも関わらなかった。
ソレは、彼女と他者との間に、見えなく、透明な、でも、はるかな高さを持ち、
はるかな分厚さを持った壁があるようだった。
少年は、そんな彼女に一方的な想いを持った。そんな彼女の壁を壊したいと想った。
彼は彼女に告白した。
彼女は彼に聞いた。
『何故、私に付きまとおうとするの？』
彼女が発した、初めての想いだった。
「僕は、君を好きで、それと…」
君を助けたいから。
そんな仰々しい、高校生が持つのには大きすぎる想いを、少年は彼女に発することを躊躇った。
『……。』
彼女は、ただ待った。
「君を…助けたいんだ。」
弱々しくも、確かに。確かに発した少年の想いに、
初めて。
「好き」という大っぴらな想いに赤面もせず、眉の一つも動かさなかった彼女は、
その端整で、人形じみた顔を、醜いものでも見るかのように、歪めた。
『…それは、』
『それは、おかしいわ。何から私を助けようと言うの？何か、私が可哀想だとでも想ったの？』
まるで、誰にも触られたくない、見られたくないものを隠すかのように、彼女は口早に想いを発した。
『私は…今幸せだもの。誰にも不幸とは想わせないわ。
可哀想だなんて、もっての他。
私は、今、幸せなのよ。』
「幸せ」。
その想いを、上手く飲み込めなかったかのように彼女は一つ咳をする。
そして、少年を威嚇するかのように、睨み付け去っていった。
少年は想う。
自分の想いはただのお節介だったのだと。
最後まで一方的だったのだと。
彼女の壁は、自ら作り上げたものだったのだと。
自分の想いを否定された少年は知らない。
彼女のその端整な顔の下の、衣服が隠し簑となり、
誰も分からぬ場所にある、たくさんの痣のことを。
彼女が何かを慌てて隠そうとしていたことを。
彼女が「幸せ」の想いを発することを躊躇ったことを。
少年は知らない。
彼女への決死の告白を、密かに聞き続けていた、彼女とよく似た、端整な顔をした、でも痩せこけている、妙齢の女性の存在を。
少年は知らない。
この日、彼女が最初で最後に、自分の回りを囲っていた壁の向こうからの想いを聞き取ったということを。
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