九十 ページ15
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「…開店前だからいいが、わっちらがいることを忘れていないかA」
「……あ」
背後から気まずそうに現れる月詠に、Aは硬直した。
慌てたようにして、椅子から立ち上がり、坂本から離れようとするが、
…すぐに捕まえられて。
坂本に貰った首巻きをくい、と引っ張られて、坂本の腕の中。
「いつもAが世話になっとるのう!」
坂本は、自分の物と言わんばかりに抱き寄せて、月詠に歯を見せた。
「坂本さん、離してくださ」
「今日、Aを借りて行ってもいいかいのう」
「勝手に話を進めないで下さいよ」
Aを抱き締める腕は力強く、Aは坂本の腕の中で暴れることしかできなかった。
それを見て、月詠はふうと煙を吹き、
「百華の仕事に間に合うなら問題ない。好きにしなんし」
興味無さそうに、許可を出した。
それと同時にごそごそと袖から出した紙を坂本に手渡す。
「それは吉原で使える割引券じゃ。良かったら使いなんし」
坂本の手には、吉原で営業する桃色の宿屋の割引券。
坂本はそれを見て、ぱあ、と表情を明るくし、月詠の手を握る。
「月詠さん?!宿屋の券って…ちょっ」
目を丸くするAを他所に、坂本は目を弧を描く。
「こりゃあ良かあ!丁度行こうと思いよったんじゃあ。おおきにぃ!」
「そうか。それは良かった」
「え、いや待って私の意見も聞いてく」
「有り難く使わせて貰うぜよ!」
坂本は楽しそうに笑い、抱えたAに意味ありげな怪しい笑みを浮かべた。
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無理矢理に抱え、連れてこられた先は、桃色の大人な宿屋。
坂本は慣れた手つきで、部屋のボタンを押す。
「…私、まだ許可出してないですよ。触れないで下さいって言いましたよね」
「んう?でもひどいこと言うたあって反省しとったじゃろう?」
「反省しても、無かったことにはなりませんから」
ほうかあ残念じゃのう、と坂本は言い、そのままAを部屋に連れ込んだ。
Aはソファに座り、坂本を睨む。
坂本はにこにことしたままで、Aの目の前の机に、冷蔵庫から取り出した酒を置いた。
そのまま、坂本はAの隣に腰を下ろす。
Aを覗き込むように見、
「今日はわしの酒の相手をしとうせ、A」
と酒器を手渡した。
「すまいるでのAじゃなく、今のおまんと、わしは飲みたいぜよ」
Aは手渡された酒器を受け取り、酒を注いだ。
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Nattu(プロフ) - connyさん» connyサン!再度コメントありがとうございます。嬉しいです^^いつの間にか4作目で、私自身いつ終わるんだろこれ…状態なので何シーズン続くか未定です笑 これからも温かく見守っていただけると幸いです* 長きに渡るこの作品を読んで下さり誠にありがとうございます (2021年3月3日 12時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - シリーズ4個目…本当にすごいです…!続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 712cd20bd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年2月25日 21時