【ヒロアカ】死柄木弔の忠犬６ (ページ45)

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それは本当に呆気なかった。
ほんの一瞬顔に手が触れただけで全身に電流を流されたような衝撃が走り、すぐに視界を覆っていた掌は離された。

「ありがとう、君のおかげで僕はまた魔王に一歩近づくことができた」

ゆっくりと黒爪が体から引き抜かれ開放されるが私は地面に倒れたまま動けなかった。
それどころか感謝の言葉を述べる彼を一瞥することもできず、ただただ呆然としていた。

「やはり嗅覚と聴覚が逸脱している、これは便利だ！もっと早く手に入れていれば前の僕も赤外線など使わずに済んだだろうな」

喜ぶ彼とは裏腹に、私はようやく体を少し動かして自身の顔に触れる。
そこには正常な人間の耳が生えていて、反対に頭上の大きな耳は無くなっていた。
そこでようやく個性を失ったという現実を受け入れた私はショックのあまり涙も出なかった。

「さぁこれで君も忠犬卒業だ」

大袈裟でもなんでもなく、これまでの人生を否定されたような気がした。
自分のアインデンティティを失った、自分が自分では無くなってしまうような感覚だった。

犬個性の家系に生まれ、女でありながら忠犬に夢を見た。
個性を活かすための稽古や訓練、それらは決して生半可なものではなかった。
それでも夢のために人生を捧げる覚悟だった。
だから家族や友人を捨てることになっても、私は敵になった。

そんな積み重ねが一瞬で奪い去られた。
夢を追いかけて敵になったはずが、その夢を個性ごと奪われた。
なんて呆気ない。
個性と一緒に気力までも奪われたのだろうか、ショックで頭が真っ白になって何もする気が起きない。
オールフォーワン本体が何か喋っているが言い返す気力はとても湧かなかった。
それに気力以前に身体も限界を迎えていた。
自身の赤い体液がじわじわと地面に広がっていく様をぼんやりと眺め、どこか他人事のように"このまま死ぬのだろう"と思った。
よく考えたら背中を刺されたのは大分致命傷だ、我ながらあの状態でよく動けたものだ。
個性を奪われたことで半ば自暴自棄になりすんなりと死を受け入れようとしていた時、朦朧とする意識の中で先のオールフォーワンの言葉を思い出した。
　
　
　