226 ページ33
夜は部屋で男性陣が盃を交わし、貸切でなければクレームものだというくらいにそれはもうお祭り騒ぎだった。
もちろん私とトガちゃんは素面だけど、顔を真っ赤にして羽目を外すみんなを見ているだけで面白くてずっと笑っていた。
それに個人的には酔っ払った弔さんというレアなものも見ることができて彼の新たな一面を知ることになった。
いつもより少し声が大きくなって呂律が回らず手当たり次第人に絡みまくる姿までも愛おしく思ってしまうのだから恋というのは素晴らしい。
そんな宴会後の静けさの中1人散らかった部屋を見渡す。
布団のシーツはめちゃくちゃ、全員が床に雑魚寝しているので足の踏み場もない。
ふと時計を見ればいつのまにか日付も変わってとっくに年を越していた。
「…A……」
名前を呼ばれて反射的に振り返るとそこには、枕を抱き締めながら口を開けて無防備に眠っている弔さん。
寝言かとすぐに理解はしたものの彼の寝顔から目を逸らすことができず、そして私は何故か無性に泣きたくなった。
きっと今この瞬間があまりにも幸せすぎるから。
この幸せがずっと続けばいいのに。
「っ…！」
くいっと引っ張られた気がしてハッとすると、薄らと瞼を開いた弔さんが甘えるように私の浴衣の裾を掴んでいた。
「起きてたんですか？」
「ん…今起きた」
お酒のせいか寝起きだからか、カサカサに掠れた低い声で呻いている。
「お前が出てきた…夢に…」
そして目の焦点が合わないままいかにもぼーっとした様子で呟いた。
たしかにさっき寝言で私の名を呼んでいたっけ。
「夢の中でもお会いできるなんて、光栄です」
「…なにしてたか思い出せない、けど…なんか嬉しかった気がする」
少し強めに腕を引かれて、さっきまで抱きしめていた枕の位置にすっぽりと収まってしまった。
これは一緒に寝ようってことかなとされるがままに彼に包まれる。
「…転弧って言って」
「え」
転弧って誰？弔さん寝ぼけてる？
「はやく」
「えっと…転弧、さん」
突然聞いたことない人名に戸惑っていると催促されてしまったのでとりあえず言われた通りにその名を呼んだ。
抱き締められていて顔は見えないけど、声や雰囲気がいつもと違って違和感を覚える。
私よりも体が大きくて現にその長い腕で私を閉じ込めているはずの彼が小さく幼い子供のように思えた。
そして彼は満足そうに息を吐いて、そのまま再び寝息を立てていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 470人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さかさま | 作成日時：2022年4月20日 22時
