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「あら、もう行くの？早いのね」
「うん。集合時間早いんだ」
林間合宿当日の早朝。
私はすでに玄関先でキャリーバッグを片手に靴を履いていた。朝早くから見送りに玄関まで来てくれたお母さん。
「今日は制服じゃないのね」
「林間合宿だから私服でいいんだって。お父さんは？」
「昨日仕事が遅かったからまだ寝てるわ」
「そっか…、お母さん！」
「あらあら珍しいどうしたの」
キャリーバッグを手放して、お母さんの首に腕を回して飛びついた。お母さんに抱きつくなんていつぶりだろう。
まだ見ぬ弟が眠っているお母さんのお腹を少し撫でた。
「えへへ、泊まりだからちょっと寂しくて〜」
「そうねぇ気をつけるのよ」
「…うん。頑張るね！お母さんも体気をつけて。いってきます」
「いってらっしゃい」
できるだけ不自然にならないように、涙が出ないように、声が震えないように。名残惜しい気持ちは隠したまま私は十数年住み続けた家の玄関を後にした。
もう二度と帰ることはできないと知りながら。
大きな見た目に反して軽いキャリーバッグを引きずりながら街を歩く。
私は今日表の世界から姿を消す。
本当はもっと時間をかけて決行しようと思った。最後に親戚に会ったり、幼なじみと遊んだり、クラスメイトたちと合宿に行くことも考えた。
でもそうしなかったのは、みんなの顔を見たら決意が揺らぐのではないかという心配からではない。単純にそんなの未練がましいと思い直しただけだ。
なので、手紙に思いを綴った。
父と母へ宛てたそれには主君を見つけたことと彼について行くと決めたこと。今まで育ててくれたことへの感謝などを文字に起こして、自室の机に置いてきた。
そして、せっかく雄英に入学した私を尊敬していると言って応援してくれた幼なじみたちへ。期待に応えられなかったことと、また会おうという約束を果たせないことへの謝罪。これらを彼女たちの家のポストに直接投函してきた。
最後に、雄英に渡す退学届。
数ヶ月しか通っていない通学路を歩き続け、まだ誰もいない静かな雄英高校に到着する。早朝に家を出たのは誰にも出くわさないためだ。雄英の正面玄関に設置された郵便受けに退学届を入れて踵を返す。
きっと数時間後には合宿に出発する生徒たちで賑わうんだろうな。
最後に、スマホを開いて初期化を行えばやることはおしまい。
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さかさま(プロフ) - まぶぴちょこさん» わー！とても嬉しいお言葉です！励みになります！ありがとうございます^^ (2021年12月29日 16時) (
レス) id: 24f9a11766 (このIDを非表示/違反報告)
まぶぴちょこ(プロフ) - この話めちゃくちゃ好きです！！続き楽しみにしています！更新頑張ってください！ (2021年12月29日 9時) (レス) @page45 id: 045921842f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さかさま | 作成日時：2021年12月24日 17時
