光闇1 ページ1
彼女の世界に色は存在しない。
彼女は、小学一年生なのにもかかわらず、鋭い観察力と洞察力を持った賢い子。
そう言われ、皆から称賛されるわけでもない。されなくないのだ。理由は彼女以外に分かるわけがない。
しかし、兄は彼女を褒め続ける。何事でも良くやったね、凄かったよと褒めるのだ。兄の笑顔には効果があるのか、彼女は兄にニコリと笑い返す。
何気ない兄妹にも見えるが、彼女には誰も知らない秘密があった。
少しばかり年の離れた兄は彼女がまだ四歳くらいの小さな時、好きな色は何？と尋ねたことがある。
普通だったらいちごの赤！や空の青！と答えるだろう。しかし、彼女は違った。
彼女はこくりと首を傾けただけだった。
まあ、四歳なのだから成長が遅いだけかと兄は何も疑いもせずそうかと彼女に笑顔を向けた。
彼女は兄から見て、『色』というものに興味を持っているとは到底思えなかった。
その後も何度か好きな色についての話題を振ってみたが、効果は乏しく不思議そうに兄を見つめるだけだった。
兄は興味を持たない彼女に色を教えた。身近なものから遠く手の届かないところまで。一つ一つ丁寧に教えた。
ある時、変化が訪れた。
初めて質問したときから約1年が経った時だ。兄は根気よく彼女に好きな色はと尋ねた。
すると、彼女は兄の頭を優しく包み込み、そして言った。
好きな色は『快斗兄の目の色』、と。
彼女の世界に色は存在しない。だから目の色なんか分からない。それでも、彼女は僅かな濃淡を見極めて、答えたのだ。
兄にとっては好きな色を答えてくれただけでも嬉しいことだ。でも、自分の深い青の瞳を好きな色として捉えてくれていたことには、一番の喜びを受けた。
彼女にとって『色』というものは全く想像がつかない未知のものだ。
彼女が何時も目にしているのは光闇の世界。
この世のすべてのものがモノクロ写真の様になり映像となって映し出される。
彼女にはそれが普通と考えていた。
だから、白と黒の僅かな濃淡。それこそが『色』というものだと彼女は認識していた。
兄はその事をまだ知らない。
これから知る真実を兄は信じるのか。受け止めきれるのか。
それはまだ、誰も知らない未来である。
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作者名：りんごジャム x他1人 | 作成日時：2019年5月10日 0時
