約束 ページ29
Takanori.I
『ありがとうございました』
Aは買い物を終えると、後部座席に買った花束を置いて、助手席に乗った。
『それじゃ運転お願いします！』
「任せてください」
Aの出身地である埼玉県熊谷市。
某所にある墓地に俺達は足を運んだ。
階段を登ったその上で、道とすぐ近い場所にお墓がある。
「ここが……」
『ん、おばあちゃんのお墓』
山口家之墓と彫られた墓石の前には、何も無かった。
『二ヶ月に一回、お墓参りに来てた。
仕事前とか、早く終わった時とか、休みの時とか』
「………」
『ずっといつ言おうか迷ってた。
覚悟ができなかったから』
「A……」
『今でも夢に見るって言ったでしょ。
まだ立ち直れてないんだ、おばあちゃんが亡くなったあの日から。
ずっと、ずっと、冷たい手の感触が残ってる』
慣れた手つきでお墓を掃除しているA。
一人で、ずっとここに来てたんだなって思った。
『デビューが決まった時、デビューした後、不安な日はここに来たりしてた。
ここでならおばあちゃんしか居ないから、泣きたいだけ泣ける』
「……」
『まぁ剛典くんと出会ってからは、それも変わって。
一度だけ、言ったことがあったんだ。
もう大丈夫だよって』
花束を花瓶に生けて、最後にお線香に火をつけたA。
その瞳は寂しそうだった。
『ここに来ちゃダメだって分かってる。
縋っちゃダメだって分かってる。
前に進まなきゃいけないのも分かってる』
「……」
『けど、私の家族はおばあちゃんしか居なかったから。
だから、ここから離れたくないって、おばあちゃんの所に帰りたいって何度も思う』
俺は何も言うことができなかった。
けど、俺はAの隣にしゃがんで、手を合わせた。
「山口さん、初めまして」
自己紹介から、普段のAの頑張りから、伝えたいことは沢山ある。
これからAを独りにしないと、ここで誓いたかった。
「必ず独りにしないと、あなたに誓います。
あなたが守り続けてくれた彼女を、坂本Aさんを、俺にください」
「また改めて、報告させていただくことになるでしょうが、
何が何でも彼女を守って、あなたの分も、愛させてください」
俺はそう言って合わせていた手を下ろした。
隣のAは、声を出さないように口を覆って泣いていた。
その泣き方が辛くて、俺は抱き寄せる。
「今の言葉、絶対嘘にしないから」
『ん』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪乃 | 作成日時：2023年6月22日 19時
