大事な家族 ページ25
Takanori.I
帰宅して、風呂入って出ると、ソファーでAがボーっとしていた。
「どうした？」
『んー……』
思い詰めた表情をしたAは、少し反応が鈍かった。
心配になって隣に行くと、Aは俺の手を繋いで、話し出す。
『もう少しで、命日なんだ』
「誰の？」
『私のことを抱きしめてくれてた、近所のおばあちゃん』
手は握ったままで、Aがゆっくり話し出す。
『そのおばあちゃんは、近所に住んでる一人暮らしの人なんだけど。
お子さんが早くに亡くなって、ご主人も私が産まれる頃に亡くなって。
だけど、凄く素敵な人で、とっても優しくて、とっても温かい人で』
「うん」
『私は、親よりもおばあちゃんが好きだった。
抱きしめて欲しい時に、抱きしめてくれた。
私が頑張りたくないって言ったら、笑顔でいいよって言ってくれた。
頭を撫でてくれたし、お洋服も一緒に選んでくれた。
ご飯の炊き方、お味噌汁の作り方、料理も沢山教えてくれて……。
けど、小学六年生の時に、亡くなっちゃった』
「っ」
『学校から帰った時、ソファーで寝てると思って。
買い物も終わらせて、料理したかったから起こそうと思った。
その時に触って気がついた、冷たいって』
「……」
『おばあちゃんの、いつも温かい手が、いつも温かいこの手が、冷たかった。
その瞬間初めて人の死に触れて、私は泣きながら救急車を呼んだ』
Aから知らされる壮絶な生立ちに、俺はAを抱き寄せた。
『私が居なかったら、気づくのはもっと遅かったって、救急隊員に言われて、おばあちゃんにすがりついて泣いた。
それでも、母と父は、隣に居てくれなかった』
「……」
『もうすぐ十五年が経つけど、今でも夢に見るんだ。
おばあちゃんが、「良かったねぇ」「頑張ってんねぇ」って笑ってる姿も。
おばあちゃんが、冷たくなってる感覚も、抱きついた時抱きしめてくれなかったこと』
「……」
『だから、去年は行けなかったお墓参りに、今年は行けるって思うと、気が抜けて』
「そっか……」
Aはようやく手を繋いでない方の手を俺の背中に回した。
ずっと触れてた背中が震え出す。
『お願いがある』
「なに？」
『今年のお墓参り、できれば、一緒に行って欲しい。
命日の日じゃなくても良いから』
「もちろん行くよ。
Aの大事な家族に挨拶したいから」
俺がそう言うと、Aは何度も頷いてから、小さな声で泣き出した。
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作者名：雪乃 | 作成日時：2023年6月22日 19時
