ツアー最終日 ページ21
ツアー最終日、日本武道館
タイトなスキニーに、ダボダボのパーカーを羽織って、キャップを被る。
それが今回の衣装だ。
『ふぅ……』
開演十分前。
衣装に着替え終わったAは、舞台袖の椅子に座り、モニターで観客席を見てた。
ス「緊張してる？」
『ん……、最終日だから、ちょっとね』
今までとは違う力の入り方しているA。
Aはため息を吐いて、時間ギリギリまでそこに居た。
『………』
ピアノの音が流れてきた。
この伴奏で、Aは舞台に繋がる階段を登った。
新曲を作っている時のVTRが終わると、Aは次の衣装に着替えた。
ダボッとしたワイドパンツに黒のノースリーブパーカー。
まだ時間が残っているので、Aは椅子に座ってスマホを見た。
『あとどれくらい残ってます？』
ス「後5分！！」
その間に、Aは岩田からの連絡を見た。
今会場に来てるよ。
そのメッセージだけで、Aは一息吐いて、スタンプを送った。
スマホを置くと、Aは滲み出る汗を拭ってモニターに目を向けた。
ス「待機お願いします」
『はーい』
Aは立ち上がり、奈落の位置に立つ。
ス「上がります」
『…………はい』
映像が終わると、奈落が上がった。
スモークの中を上がっていくと、バイオリンの音が止むと共に歌い出した。
.
.
.
アンコール。
『今回のツアーで、私は沢山の出会いを頂けました。
初めてご一緒したスタッフさん、初めてご一緒したダンサーたち。
沢山の方に支えられて、無事に終えようとしています』
誰もが黙ってAの声を聞く。
Aは、涙を堪えて上を向いていた。
『間もなく、この時間が終わりを迎えようとしています。
そこでですが、まだほんの少しだけお時間をください』
そう言ったAの言葉は、震えていた。
だが、会場に居る誰もが彼女の言葉に耳を傾ける。
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作者名：雪乃 | 作成日時：2023年6月22日 19時
