Day−１ ページ1
朝早く誰もいない教室に足を運んだ。
窓側の1番後ろ。最初は嫌だったけれど、1つだけ飛び出ているこの席も気づけば居心地が良かった。
卒業する実感が湧かないのは卒業生あるあるなのかもしれない。学校生活が残り10日で終わるなんて信じられないし。
机に椅子が当たる音が校舎に響く。腰を下ろせばいつもと違って教卓まで見える。意外と教室って広い。
窓から差し込む光が眠気を誘う。
遠くで誰かの声が聞こえる。頭がぼーっとする中、机に突っ伏していた顔を上げた。
「なんで？ついに壊れた？」
「いや、急すぎだろー」
何が壊れたのだろうか。
首を傾げていると唯月がこっちを見た。
「A、今日早かったんでしょ。知らない？ドアのこと」
「私前から入ったからかな。全然気づかなかった 」
「寝るなら早く来る意味ないって」
壊れていたのは後ろの扉で建付けが悪いのか、開かなくなったらしい。
唯月とはたまに一緒に登校している。どっちかが連絡して誘う。当日急に誘うもんだから慌てて準備するのが軽い運動になっていた。今日は先に行くと連絡を入れていたありさまがこれだから不満なんだろうね。
ガラガラ──
「先生、ドアが開かないらしいんですが、」
やってきた柊先生に茅野さんが聞いたが、反応は思ったよりも薄く、みんなが席に着くよう促した。
「あれ、甲斐くん達は？」
ここにいない甲斐くんたちは遅刻の常連で、そんな彼らに手を焼いている先生は多い。
「あー間に合った間に合った」
「間に合ってない。遅刻だよ」
「おい、ぶっきー。少しくらい大目に見ろってー！」
教室にいる人たちは担任が蹴られていても平然としている。これが私たちの日常だ。
甲斐くんは唯月とハイタッチをし、目の前の席に座る。
鞄を置くと振り返ってこっちを見た。
「今日は早いんだな。卒業式と間違えたのか？」
「今日も だよ。甲斐くんその調子じゃ、式も遅刻だね 」
この前私が遅刻したからってからかってくる意地悪な甲斐くん。甲斐くんはまんまと挑発に乗って あぁ？と怒っている一方で、先生は平気そうにすぐに立ち上がって、扉を閉めた。
「今日は、大切なお知らせがあります」
大切な と言われても、聞く耳を持たない生徒ばかりだった。続きを聞くまでは
「今から、皆さんには──
──人質になってもらいます」
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作者名：ono:) | 作成日時：2023年2月4日 0時
