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私の願い。
そんなものはすぐには思いつかなかった。
これから両親と祖父と一緒に暮らせるなら、それで十分ではないか。と思う。
______Aちゃん。
彼女の声が脳裏を掠めた。
そしておもむろに、あの日ちぎった呪符の片割れを懐から取り出した。
『……花屋』
「ん?」
『花屋で働きたいです』
「……花屋か。分かった。監視の目があるかもしれないからすぐには厳しいが、必ず叶えると誓うよ」
『ありがとうございます』
「言っただろう。これは私の贖罪なんだ」
少しの沈黙。
それから祖父は袂から小箱を取り出して渡した。
「悟くんからのプレゼントらしい。彼が気を失う前に渡されたんだ」
受け取って小箱を開ける。
『これって、』
「ガラスペンだね。彼は中々趣味がいい様だ」
中には透き通った綺麗なガラスペンが入っていた。
きっと呪符制作に使うのを想定したのだろう。
未だに呪符ばかり使う私を、彼は受け入れてくれていた。
『……どうして?』
声が震える。
『何とも思ってないって、言ったじゃない』
我慢できずに涙が次々に零れ落ちた。
折角割り切ろうとしたのに。
お願いだから。
期待させないでほしい。
小箱を持つ力が強くなる。
ふと消えてしまわないようにしっかり手で包んだ。
「……彼が好きかい?」
『はい…っ、好きです』
泣きながら何度も頷いた。
もし叶うならば、もう一度だけ彼に会いたい。
会って、面と向かって言いたい。
「そうか」と後頭部に手を当てて引き寄せられる。
額が祖父の胸に当たった。
「何もかも、全て忘れなさい」
『……え?』
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時