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「……嘘だろ?」
「本当だよ。残念ながらね」
「どうしてそんな急に?ていうかなんで俺に言わなかったんすか」
「すまないね。ギリギリまで君だけには言えなかったんだ」
「なんで」
動揺で敬語が入り交じる。
一言一言発する度に空気が喉につっかえた。
「前もって言ったら君は何をしでかすかないだろう?もし何かあったら私たちが消されるんだ」
「は?意味が分かんねえんですけど」
「簡潔に言えば、篠崎家は御三家に脅されていたんだよ。"根絶させられたくないならば大人しく五条悟から手を引け"とね」
「何故ですか」
「Aを君の隣に置くのをよく思わない者が大勢いるようで、それに私に対しての鬱憤が合わさってこの際だからと篠崎家を呪術界から摘み出そうとしてるんじゃないかな」
「……は、ふざけんなよ」
「全くだ。地位も剥奪されるようだし、これからは何をするにも大っぴらに監視がつきそうで良い事がないね」
彼は呆れ気味に深く溜息をついた。
「それで夜逃げを?」
後ろ。屋敷の中を一瞥する。
彼は「あぁ、そうだ」と軽く頷いた。
「こんな事もあろうかと、事前に用意していた別荘に移り住むんだ。従者も解雇したし、監視が届かない遠い所で身を潜めて隠遁生活でもするつもりだ」
彼は、彼らはもうすっかり割り切ってしまっているようだった。
「Aは何も言わなかったんですか」
「うん、案外すんなり受け入れてくれたよ」
奥歯を噛み締める。
そして、昨日の自分を恨んだ。
あの時。ちゃんと言っておけば。
「……俺は何もしてやれないんですか」
「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」
何をするにも、もう手遅れだった。
「そういえば、どうして一槻サンはまだここに?」
そう尋ねると、彼は一度視線を逸らして笑った。
「やることがあるんだ」
「やること?」
「悟くん。以前君はどうして自分を選んだのか。と私に聞いたね」
聞き返しても答えずに、話を振られる。
眉を顰めて一応頷いた。
「理由は単純だよ。君が真っ当な人間だからだ」
「……そうは思えないですけど」
「いいや、君はこの業界には珍しい存在なんだ。性根が腐っていない。それでいて見据えた自分の道を信じて、何者にも邪魔されない。とただひたすらに突き進んでいくような人間だ」
俺をべた褒めし終わると、深く息を吐いて苦笑いをするように言う。
「……私は、君のようになりたかった」
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時