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「はぁ…っはぁ……っ」
上がる息。
全力で駆けて、腕を振った。
少しの時間も惜しいので、途中何度も壁を乗り越えてショートカットした。
視線の先に正門が見える。
地面を蹴るサイクルを速くして加速する。
飛び出すように正門をくぐった。
「____A」
『……遅かったね。何してたの』
車の横で腕を組んで不満そうに怒る彼女。
そんな幻覚が見えたのは一瞬で、そこには車も、彼女の姿もなかった。
落ち着いて上がった呼吸を整える。
それからケータイを取り出して、教室を出てから5分も経ってないのを確認した。
そりゃいないか。
待ってりゃそのうち来んだろ。
「……あーあ、急いで損した」
正門の柱に背中を預けて座り込む。
待ってれば、そのうち来る。
そして珍しく先に待っていた俺に向かって『いつもそのくらいの意気込みで来ればいいのに』とか生意気なことを言うのだろう。
そう信じて待ち続けた。
10分経っても。
20分経っても。
30分経っても、Aは来なかった。
向かいのコンビニでサンタの格好をした店員がケーキの宣伝板を手に客寄せをしている。
その姿をぼんやり眺めていた自分の手に、不意に何かが舞い降りた。
白くて冷たいそれは、手の体温で解けてしまう。
「……雪だ」
東京の空に初雪が降った。
吐く息が白い。
「やっぱり来ないか。やらかしたな悟」
「アッツ!?!」
頬に熱された物が押し当てられる。
横を振り向くと傑がココアの入った缶を押し当てていた。硝子もいる。
「お、お前ら説教はどうしたんだよ」
「バックれた。あぁ勘違いしないで欲しいんだけど別に私は悟が心配で来たわけじゃないよ。飲み物を買いに来ただけなんだ」
「私も同じく。あとタバコ吸いに来ただけ。校内の喫煙所使ったら怒られるからね」
「これは買い間違えたから」と言ってココアを手渡される。
それを素直に受け取ってから傑と硝子を交互に見る。2人は何食わぬ顔で隣に腰掛けた。
呆然と見ていたが、思い出したように口を開いた。
「……ありが「今日は寒いな」……あ?」
お礼の1つでも言ってやれば満足するだろうと、Aに言うべき言葉に比べれば幾分か楽だと言いかければ、傑が遮るように呟いた。
「寒いな。君もそう思わないかい?」
俺を見て笑う。
「……寒くねーよ」
一緒に吐き出された息は、やっぱり白かった。
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時