最終電車

１３ ページ13

切り掛けた電話の向こうで、


「あっ、待って下さい」


慌てた声がして。


「どうしたの？」


聞き返した時に、
本当に、信五が私を手招きした。

ここを出てから行く店の話がまとまったんだろうな。


忘れられて、置き去りにされなかっただけ、ましか。


「あの、また寂しいなったら、
いつでも連絡下さい。
ラインのトークルーム開けっ放しにして、
待っとくんで・・・」


「安田？
開けっ放しって・・・」


「寂しなかったから、いいんです。
じゃ、休みの日にすいませんでした」


早口に言って、電話が切れた。


「A！行くで！」


もう出口付近にいる信五が、
立ち止まったまんまの私を呼んでる。


ラインのトークルーム。


開けたら・・・


ピコンて通知音とともに、送られてきた、


今、安田がいると思われる、
草原って呼んでた場所の画像。


綺麗な場所っていうより、
冬枯れしてて、寒そうな雰囲気だな。


そう思ったとこに、
また送られてきた、


その草原に寝転がって、
ビーバーみたいな歯をのぞかせて笑う安田。


雑誌から抜け出てきたみたいなアングル。


安田って、どこぞのアイドル顔負け。


可愛いんだから。


今まで気にしたことないけど、
会社でも、
事務の若い子なんかには人気あるのかも、なんて。


そういや、何年か前、
後輩の綾音ちゃんと噂あったような？


ちらっと、頭をかすめたけど。

私には関係ないよね。




携帯、バッグに閉まって、
イライラしてる信五のところへ駆け寄る。


「おっそ。
仕事の連絡か？」


「ううん。
会社のまだ若い後輩の男の子。
寂しくないですか？って」


ちょっとぐらい、
危機感持てって、
私なりの攻めは・・・


「はあ？
今時の若い男は女々しいな。
もしかして、
そいつ、お前に気ぃあんのか？」


全く動じない、
ガサツな笑顔にあっさりと敗退。


立て直して・・・


「うん、そう言ってた」


笑顔で、再度の攻め。


これでどうだ！

さすがの信五も嫉妬する？


そんな淡い期待は・・・


「年上の女上司口説くとか。
なかなかやるな、そいつ」


ものの見事に打ち砕かれる。

１４→←１２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す