1.出会いって大事じゃないか/sgi ページ2
「ハイ皆聞いてくださ〜い」
時計の針が重なるちょうど12時。皆が昼飯を食おうとガヤガヤしているタイミングで伊沢が大きな声を出した。何かぶつけたとか落としたような「ウワァ！」だったら完全にスルーして他の人間に任せてたけど今日は違う。なんだ、と視線を向ければそこにはニコニコな伊沢の他に見覚えのある顔の人間がいた。
どっかで…見たな…？
「今日からメンバーになった樫田Aさんです！」
「や…皆さんがお昼ご飯食べるタイミングじゃなくても…」
「いいのいいの、なんだかんだ聞いてくれるから」
ああそうだ思い出した、よく廊下ですれ違っていた子だ。何故か気になってしまったいた子。
樫田、A。彼女はそんな名前なのか。
名前を聞いてからかなんだか分からないが世界が一瞬止まったような錯覚に陥った。全ての色が消え、何もかもが彼女中心になったような錯覚に。
「ハーイ質問、好きなことは？」
それはやがて誰かが彼女に質問するような声が聞こえて、世界は止まってなどいないと我に返る。
「あ、えっと…アニメ鑑賞とか…植物の観察とか…？」
「アニメ好きなの？」
「はい、普通の人よりかは好きな分類に入るかと」
「お、それじゃあヤツと気が合いそうだね」
河村さんが"ヤツ"と言ってわざとらしく俺の方を向いた。確かに俺はアニメ好きだし、声優の方にも比較的詳しい。メンバーきってのオタクだから、新しいメンバーがオタクに分類されるなら確かに俺に任せるのが一番なのかもしれない。
「じゃあAさん、須貝さんが色々教えてくれるって」
「え？あ、え、ありがとうございます」
「はいそれじゃ解散！自己紹介とかは須貝さんがAさんと一緒にメンバー紹介で回ってくれるからその時に！」
雑な解散のさせ方をするが、昼飯時なのか数人が彼女の方へ行くのがわかった。
一応俺も教育係だし、と昼飯のサンドイッチを持って歩を進めれば俺を見た彼女がとたとたと近付いてくる。
「えと、須貝さん、ですよね？廊下で時々お見かけしていたんですが…」
彼女に名前を呼ばれ、更には認知されていた事実になんともいえない喜びを覚えた。
なんだ、この歳にして舞い上がってんのか俺は。
「お、そうそう！覚えててくれてたんだ！改めて…ナイスガイの須貝です！よろしくな」
「あ、樫田Aです、これからよろしくお願いします！」
屈託のない笑みで彼女は笑う。
あの世界が止まった感覚を、俺は忘れることができそうにない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 71人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
