28：誘い ページ28
.
大学生最後の夏休みはあっという間に過ぎていった。バイトに卒論に追われ、帰省と友達との旅行が終わった頃にはすっかり暑さも和らいでいた。
もう9月。あれからも京本とは同期としてたまに高地くんを交えて遊んだりご飯に行ったりしている。ただそこに恋愛感情は一切なくて、京本も前の塩対応にすっかり戻ってしまった。
そして、松村くんとは相変わらず微妙な感じが続いてる。業務以外で話しかけることはないけど、どこかお互いを気にしてる。そんな感じ。
｢三上さんまだ北斗と喧嘩してるんですかー？｣
｢だから喧嘩じゃないって｣
｢喧嘩じゃなきゃなんなのよ｣
｢何もないの、本当に｣
シフトが被る度に松村くんの同期はこの話を振ってくる。最近は特に、仲直りしたらとかなんとかかんとか。別に喧嘩した訳じゃないから仲直りなんてないのに、私と松村くんをどうにか繋ごうしてる。
｢三上さんと北斗がこのままなの俺嫌だって｣
｢田中くんて意外と情に厚いんだね｣
｢意外とは余計だわ｣
｢だっていかにも軽薄そうじゃん｣
｢うわーもう口聞かない｣
｢嘘だよ、ごめんて｣
｢じゃあ今度飯奢りで｣
ちゃっかりしてる後輩はにっと口角を上げてそんなことを言う。最近やたら機嫌がいいのは、彼女ができたから。私と松村くんにお節介焼いてくるのもきっとそのせい。
｢割り勘なら惚気聞いてあげるけど？｣
｢わー、迷う｣
｢一択でしょ｣
｢え〜｣
｢まあ考えときな｣
｢あ、ちょ、待ってくださいよ〜｣
どうしようって真剣に考えてる田中くんを置いて倉庫を出た。暇を持て余しながらレジに入れば、肩がトンと叩かれる。田中くんかと思って｢決まったの？｣って言葉を返しても返事が来ない。
｢三上さん｣
｢……松村くん｣
｢うん、俺｣
振り返った先に立っていたのは、もうしばらく事務的な会話以外していない後輩だった。こんな風に話しかけられたのは久々で酷く戸惑う。
｢今日最後までですよね？｣
｢あ、うん｣
｢飯行きましょう｣
｢や、それは…｣
｢彼女とは別れたから｣
｢……え｣
｢いいです、よね？｣
相変わらず真っ黒な瞳は何を考えているのは分からない。ただひとつ分かるのは、私と松村くんはちゃんと話をするべきなんだってこと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2482人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sail(プロフ) - ふまめさん» 初めまして。コメントありがとうございます。そのようなお言葉をいただけて本当に嬉しいです。お付き合いいただきありがとうございました😌 (2021年12月9日 20時) (
レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
ふまめ - 初めまして。楽しく読ませて頂きました。言葉選びとか2人の距離感とかすごく繊細に書かれていて、こんな素敵な小説を見つけることができて嬉しかったのでコメントしました。ありがとうございました！ (2021年12月9日 14時) (レス) @page35 id: fa24b69ff2 (このIDを非表示/違反報告)
sail(プロフ) - ubisiさん» ubisiさん、コメントありがとうございます。様々なコンテンツでお付き合いいただきありがとうございます。お互いが踏み出せない切なさが分かっていただけて嬉しいです！これからもよろしくお願いします◎ (2021年5月7日 2時) (レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
ubisi(プロフ) - 初めまして。いつもTwitterも楽しませて頂いています。この、お互いその先を求めながらも一歩を踏み出せない切なさ、守るものと欲しいものが別のものだとわかるもどかしさ、胸が切なくなります。北斗くんの距離感や熱量が半端なく北斗くんで、とっても好きです！ (2021年5月7日 0時) (レス) id: 65b0a741c7 (このIDを非表示/違反報告)
sail(プロフ) - halさん» halさん、コメントありがとうございます。私もhalさんのお話にいつも楽しませて頂いております。実はこのタイトルはいただき物なんです◎これからもお付き合いいただけると嬉しいです！ (2021年4月30日 16時) (レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sail
| 作者ホームページ：http://ma-no homepage
作成日時：2021年4月30日 0時
