19：リップ ページ19
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暑くてほんの少し息苦しい。抱き締められてる。そう覚った私が反射的に呼んだのは彼の名前だった。
｢……俺だよ｣
｢ん……松村くん……？｣
いつの間にか眠ってた。彼からのLINEを見てからすぐ掛けた電話は繋がらず、モヤモヤした気持ちのままお酒を飲んだらそのまま寝てたらしい。
まだぼんやりとした頭で周囲を見渡せば、床で転がる高地くんとクッションに埋もれる京本が見えた。そして自分が今松村くんの家に居ることを思い出す。
｢っ…ごめん…間違えた｣
｢抱き着く相手をってこと？｣
｢あ……うん｣
無意識に読んだ彼の名前にまだ私の中に居る彼の存在が私に嘘をつかせた。抱き締めてるのが松村くんだったら良かっのに。そう思ってたのに。
｢私…いつからこうしてた？｣
｢いや、俺も寝てたから｣
｢…そう｣
静かな部屋に響くのは2人だけの声。カーテンが閉まってない窓から差し込む月明かりが気まずい2人を照らす。
夢ならいいのにと思った。うるさい心臓の音も、15cmの距離で瞬きもせずに私を見つめる彼も、全部夢にしたいそう思った。
｢あ……ごめん、服にリップ付いちゃってた｣
｢ん？服？｣
｢うん…今度弁償するよ｣
ふと目に入ったピンクの汚れが松村くんと私の間違った距離を責めるように月明かりに浮んでた。
まだ駄目だ。まだってなんだ。
松村くんの気持ちを聞くことも怖がってるくせにこの状況に流されたい自分に嫌気がさす。
もう今日は何も無かったことにして眠りたい。自分の気持ちを整理してから松村くんにも彼にも向き合いたい。
そう思うのに、それを許してくれなかったのは私の好きな人。
｢汚していいよ｣
｢何…言って、｣
｢三上さんなら、いいよ｣
覆い被さるように迫った松村くんを避けることなんて、弱い私には出来なかった。
唇に微かに残るリップを拭うように何度も何度も口付けられて、いつの間にか自分からも松村くんを求めてた。
好き。
ただそれだけが言えない夜に、私達は唇がヒリヒリと痛むまでキスをした。月明かりが照らす松村くんの顔が切なく歪んでることに気づいてたのに、何も言えずにただキスをした。
朝日が登った朝もその次の日も私達はお互いに何も言わなかった。まとまらない思考のせいにして、私は松村くんから逃げた。
そして何も言えずに過ごした1週間後、松村くんに年下の彼女が出来た。
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sail(プロフ) - ふまめさん» 初めまして。コメントありがとうございます。そのようなお言葉をいただけて本当に嬉しいです。お付き合いいただきありがとうございました😌 (2021年12月9日 20時) (
レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
ふまめ - 初めまして。楽しく読ませて頂きました。言葉選びとか2人の距離感とかすごく繊細に書かれていて、こんな素敵な小説を見つけることができて嬉しかったのでコメントしました。ありがとうございました！ (2021年12月9日 14時) (レス) @page35 id: fa24b69ff2 (このIDを非表示/違反報告)
sail(プロフ) - ubisiさん» ubisiさん、コメントありがとうございます。様々なコンテンツでお付き合いいただきありがとうございます。お互いが踏み出せない切なさが分かっていただけて嬉しいです！これからもよろしくお願いします◎ (2021年5月7日 2時) (レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
ubisi(プロフ) - 初めまして。いつもTwitterも楽しませて頂いています。この、お互いその先を求めながらも一歩を踏み出せない切なさ、守るものと欲しいものが別のものだとわかるもどかしさ、胸が切なくなります。北斗くんの距離感や熱量が半端なく北斗くんで、とっても好きです！ (2021年5月7日 0時) (レス) id: 65b0a741c7 (このIDを非表示/違反報告)
sail(プロフ) - halさん» halさん、コメントありがとうございます。私もhalさんのお話にいつも楽しませて頂いております。実はこのタイトルはいただき物なんです◎これからもお付き合いいただけると嬉しいです！ (2021年4月30日 16時) (レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sail
| 作者ホームページ：http://ma-no homepage
作成日時：2021年4月30日 0時
