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「じゃあ飯行くか」
水族館を堪能して、再び車に乗り込んだ樹先輩がさも当たり前のように言う。
「ご飯も連れて行ってくれるんですか?」
「言ったろ?今日は特別だって」
「それはどういう……」
「後少ししたら分かるよ」
樹先輩は朝からそればかりだ。でもね、もうそろそろ私だって気づいちゃうよ。私の好きなことで埋められた一日と、思わせぶりな樹先輩の態度。樹先輩だってもう隠そうとしてないよね?
樹先輩が車を停めたのはオシャレな建物。いつのまにかジャケットを羽織ってた樹先輩は、私に待っててって言い置いてフロントに向かう。
しばらく経って、おいでって言った樹先輩の元に駆け寄れば、お前やっぱ犬なの?って笑った樹先輩が私の手を引いた。
「わ、すごーい…」
「綺麗だな」
「うん…すごく……」
乗り込んだガラス張りのエレベーターはぐんぐん上がって、目的の階に到着した時にはかなりの高さだった。
樹先輩にエスコートされるままに入ったレストランはすっごく落ち着いてて、私なんかが入っていいのかとすら思うほど。案内された席は夜景が一望できる特等席で、思わず樹先輩の顔を凝視してしまった。
「いつ、予約してくれたんですか……?」
「Aと付き合うちょっと前かな」
「誰と来るために……?」
「そんなのAに決まってんだろ」
「それは……、」
はにかんだ樹先輩に言葉を返す前にウエイターさんが現れて、あれよこれよという間に料理が運ばれた。
すっごく美味しい。けど、私の頭は樹先輩の言葉でいっぱい。だって、樹先輩が付き合う前からって言ったから。そんな前から予約してくれてたなんて知らなかった。
今まで色々考えてた自分が馬鹿らしく思える。樹先輩は私のためにこんな素敵な一日を用意してくれてたんだから。
「誕生日おめでとう、A」
料理の最後に運ばれてきたサプライズケーキには、私の名前と今日の日付が書かれていた。ロウソクの火をふっと吹き消せば、周りの人からも小さな拍手が送られる。
「黙っててごめんな?」
「全然……!…もう、嬉しすぎてどうしたらいいか…」
「なら良かった」
樹先輩の穏やかな笑顔。胸がいっぱいすぎて溢れてしまった涙は、泣くなよって眉を下げて笑う樹先輩の指に掬われた。そして今度は、小さく息を吸った樹先輩が覚悟を決めたように口を開く。
「実は今日、ここのホテルの部屋も取ってんだ」
「……え…?」
「嫌なら家まで送る。でも、嫌じゃなかったら、」
俺とここに泊まってほしい。
そう言った樹先輩の声は、ほんの少しだけ震えていた。
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作者名:sail | 作者ホームページ:http://ma-no homepage
作成日時:2021年2月4日 17時