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樹先輩からは結局何も言われないまま誕生日の前日になっていた。
私は今日も今日とてバイトで、一緒に22時上がりだった北斗先輩とお店を出る。
｢Aさ｣
｢なんですか｣
｢明日誕生日でしょ｣
｢覚えててくれたんですか…！｣
｢先週の記憶くらいあるわ｣
バカって笑った北斗先輩が明日は樹と会うの？って聞いてくるから苦笑いで頷けば何その顔って突っ込まれる。
実は樹先輩には誕生日ってことを言ってないことを伝えたら、鈍臭いなぁって落ち込んでる人にそれはちょっと失礼じゃない？！
｢じゃあ樹はAが誕生日だって知らないのかよ｣
｢正直わかんないです………｣
｢俺が聞いてやろうか？｣
｢前日にやめてくださいよ〜……｣
別にいいんです、樹先輩と居れるだけで幸せだから。誕生日を好きな人と過ごせるだけで私は満足なんです。そう北斗先輩に言えば、Aって絶対損するタイプだろって先輩。
｢私がどんなタイプでもいーでしょ｣
｢まあな｣
｢じゃあほっといてくださいよ｣
北斗先輩に当たってしまって気付く。やっぱり私は樹先輩にお誕生日おめでとうって言って欲しかったんだって。
もっと前にちゃんと言うべきだったって思ったら、ズーンと落ち込んだ。無言で歩く帰り道に、先輩にはちょっとは悪いなぁって思ったけどさっき意地悪してきたからいいや。
黙々と歩いていれば家にあっという間に着いてしまった。
｢じゃあ北斗先輩、またね｣
｢…おう｣
｢……どうしたんですか？｣
｢これ、あげる｣
ひょいっと投げられた紙袋を受け取れば、なんだかふわふわした存在がそこに居る。手を突っ込んでその正体を確認してすれば、それは真っ白なクマのぬいぐるみだった。
何これって言えば、樹に誕プレ貰えないの可哀想だからやるよって先輩が言う。
｢北斗先輩がこんな可愛いの買ってくれたの……？｣
｢悪いかよ｣
｢全然…！すごく…嬉しいです……｣
自分のせいで勝手に落ち込んでくせに、あっという間に嬉しい気持ちでいっぱいになってしまった。きっと恥ずかしさで死にそうになって、このクマさんを買ってくれた北斗先輩を想像して顔がニヤける。
｢笑った｣
｢へ？｣
｢今日ちょっと元気なかったっしょ？｣
だから良かったって言った先輩は頬にかいてはにかんだ。そして、樹と楽しんでなって手を振って踵を返す。そんな先輩に私は待ってとも言えずその場に立ち尽くす。
誕生日の前日の夜。言いそびれたありがとうと私だけが、澄んだ夜空に取り残された。
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作者名：sail
| 作者ホームページ：http://ma-no homepage
作成日時：2021年2月4日 17時
