ベイビー・ラブ (ページ32)

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◎ ページ32

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｢樹、せんぱ……い｣

｢……なに｣

｢何って、……｣

なんでこんなことするの？って言葉は喉につかえてでてこない。覆いかぶさった樹に耳を噛まれて、痛いのに背中が変にゾクゾクした。

｢や、だぁ……｣

｢やだ？こんなに感じてんのに？｣

｢そんなの、しらない………｣

なら教えてやるよって樹先輩の声が耳の中から全身に響いて身体から力が抜ける。耳から首筋にかけてを甘噛みされて、頭がおかしくなる。

｢…………こわい｣

気付いた時には涙が零れていた。

だってこんなの知らない。身体中が熱くて堪らなくて、これ以上樹先輩に触れられたら変になっちゃいそうだった。

｢ごめん……頭に血上ってた｣

帰るわって樹先輩が玄関のドアに手をかける気配がする。もうこれが夢じゃないのは分かってた。だからこのまま樹先輩を帰しちゃ駄目だって思った。

ちゃんと話したいの。怖かったけど、樹先輩ならいいの。大好きだから。ねえ、行かないで。

｢……俺に何されたかわかってんの？｣

樹先輩の背中に抱きつけば、先輩が大きなため息をつく。先輩の言葉にこくこくと頷けば、振り向いた先輩に強く抱き締められる。

｢ほんっとーにAって隙ありすぎなんだよ｣

｢隙なんてないです………｣

｢俺にされるがままだったじゃん｣

｢…だって、樹先輩だもん、｣

押し付けられた身体も、手首を掴む手も、逃げようと思えば逃げられる強さだった。だから、北斗先輩に助けられたあの日みたいな恐怖なんて微塵も感じなかった。

怖かったのは樹先輩じゃなくて、変になっちゃいそうだった自分。私が私じゃなくなっちゃいそうなのが怖かった。

｢樹先輩になら、何されてもいいです……｣

｢……頼むからそーゆうこと言うなって｣

心臓もたねぇよ。そう言った樹先輩の手のひらがほっぺたに触れる。

｢こんなの他の男にすんなよ？｣

｢…しませんよ｣

｢北斗にもだからな｣

｢……樹先輩だけです｣

約束なって言う樹先輩に頷けば、樹先輩の綺麗な顔が近づいた。きゅうって目を閉じたら樹先輩の吐息を感じる。

｢好きだ……｣

一瞬だけ重なった唇は、甘酸っぱい恋の味がした。