ベイビー・ラブ (ページ24)

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瞼の裏の暗闇の中、覚悟なんか決まんないけど怖さで目を開けることが出来なかった。

でも、私が思った最悪の事態が起きる前、不意に事務所の扉が開く音がした。

｢A……！｣

荒々しい呼吸音に混じってその声が聞こえた瞬間、安堵で膝から力が抜けた。それと同時に物凄い音がして視界が開ける。そこに居たのは、汗のせいでおでこに髪が張り付けて怖い顔をした人。

｢…何、してんすか｣

｢何って君こそ何？いきなり殴るなんて、｣

｢Aに何しようとしてか言えっつってんだよ｣

床に尻もちをつくあの人胸ぐらを掴んで、先輩は言う。先輩のこんな怖い顔見たことなくて、固まっていれば小さく舌打ちした先輩はパッと手を離す。

｢店長に報告します｣

｢俺はただ、Aちゃんをご飯に誘ってただけだよ？｣

｢じゃあ何でAが泣いてんの｣

｢それは、勝手に｣

｢……もういいわ、てか防犯カメラあるしここ｣

言い逃れできないっすからねって、言い放った先輩は氷みたいに冷たい目をしてた。言葉を失ったあの人は、血相を変えて事務所から出ていく。

その後ろ姿をぼーっと眺めていれば、ふと振り向いた先輩と目が合った。

｢……ほくと、先輩……｣

名前を呼べば弾かれたように先輩が飛んできてしゃがみ込む私を抱きかかえる。そしたら北斗先輩の匂いに満たされて、安心したのと一緒にまた涙が込み上げた。

｢こわかったぁ～……｣

｢遅くなってごめん｣

｢も、きてくれただけでいいです……｣

｢……何かされた？｣

ふるふると首を振れば良かったぁって、背中に回る北斗先輩の腕の力が強くなる。

｢変なLINEくるし電話でないし焦った｣

｢……ごめんなさい｣

｢謝んな。今日はお前悪くないし｣

一瞬私のほっぺたをぷにゅって潰した北斗先輩に再び抱きしめられて、めちゃくちゃ安心してしまった。

｢私、ファーストキス守ったんです…｣

｢……そっか｣

｢ファーストキスは樹先輩がいいから｣

北斗先輩の腕の中でボソボソ呟けば、先輩はえらいえらいって私の頭を撫でる。頑張ったなって言われたらもっと涙が出た。

｢ね、先輩、このこと誰にも言わないでください｣

｢…何で？｣

｢だってこんなの、知られたくないから｣

不甲斐ない自分が恥ずかしかった。誰にも知られたくないと思った。

｢樹にも？｣

｢…うん｣

｢じゃあ、報告があるから店長には言うけどそれ以外は言わない｣

約束なって差し出された小指と自分の小指を絡める。

そしてなんだか無性に、樹先輩に会いたくなった。