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｢何から話せばいいかな……｣
そう口を開いた樹くんの視線は宙に浮いて、ぎゅっと私の握り締めた両手に落ちた。
ゆっくりと伸ばされた熱い指先が、安心させるように柔らかく、固く握られたそれを丁寧に解いていく。
｢きっかけは、声だったんだ｣
｢…うるさかった、とか？｣
｢いや、そうじゃねーよ？…楽しそうに笑う子だなって思ってた｣
引越しの挨拶に来た時はすげー緊張してたのに、隣の部屋から聞こえて来る声はいつも楽しげだった。その笑い声が聞こえなくなったと思ったら、暗い顔でゴミ出ししてる。そんなとこが可愛いって思ったんだよ。
一息にそう言った樹くんは、自嘲的な笑みを浮かべて、引いた？って私を伺う。反射的に首を降れば、樹くんは安心したように続ける。
｢Aちゃんが前の彼氏と付き合い始めた頃からかな。怒ったり泣いたりしてる声ばっかになってさ｣
｢恥ずかしい……｣
｢んな事ねーよ。…ただ、暴力振るわれてんのかなって勝手に心配してた｣
でも、次第に声が聞こえなくなって安心したところで、アパートの部屋の前で私と元カレに遭遇した。だから思わず割って入ってしまったと樹くんは言う。
｢お兄ちゃんになって？って言われた時はすげー動揺したのよ？気になった子からそんなこと言われたら男は舞い上がっちまうから｣
｢そんな素振り見せなかったじゃないですか…｣
｢格好つけたかったからだよ。余裕ぶって承諾して、家帰ってからやったわって思った｣
｢………そうなんだ｣
｢多分Aちゃんが思ってんの違う理由。…だってさ、兄貴は恋愛対象になんねーだろ？｣
下心ばっかだったんだよ、俺。そう懺悔するように言った樹くんは、そっと私の手から自分の手を離した。
｢俺はさ、ずっとAちゃんのこといいなって思ってた。だから…Aちゃんが付き合ってた男とか何気把握してたし？跡とか付けたことはねーけど、やってることはあのストーカーと同じなんだよ｣
ごめんね、嘘ついてて。お兄ちゃんになり切れなくてごめん。切なげに眉を寄せた樹くんは何度もそう言った。
でもね、私は樹くんの話を聞いても、嫌だとか気持ち悪いだなんて少しも思わなかったんだよ。
私だって嘘ついてたから。元カレが怖かったのはもちろんあったけど、いつの間にかそれは口実に変わっていたから。
嘘をついていたのは私も同じ。そんな嘘に頼ってしまうくらい、私は樹くんが好きなんだよ。
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sail(プロフ) - ゆらさん» そのように言って頂けてとても嬉しいです。これからの更新もよろしくお願いします！ (2020年12月9日 1時) (
レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら(プロフ) - この小説大好きです！更新楽しみにしてます！頑張ってください(^_^) (2020年12月8日 16時) (レス) id: 52075201ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：sail
| 作者ホームページ：http://ma-no homepage
作成日時：2020年11月23日 20時
