こっち向いて、ハニー！

ep.1 可愛いと好きは違うのです。 ページ1

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10月。肌寒くなってきた外とは対称に、クーラーが切られた室内は温かすぎる。

特に白衣の中に着込んだスウェットが暑い。スーツ着なくていいの楽だけど、まじで白衣は嫌い。



｢ねえねえ｣

｢…んー？｣



この暑さを誰かに共有したくて隣を向けば、全然やる気のなさそうな目と目が合う。

あれ、もしかして声かける前からこっち見てたよね。もう問題解き終わってた？って、焦ってすぐ近くの手元を覗き込んでもノートは半分も埋まってない。



｢全然終わってないじゃん｣

｢だって、暑すぎるここ｣

｢え、わかる｣

｢シューチューリョク切れた｣



ぺたっと机に崩れた受験生は、もう10月なのにこんなんで大丈夫なのだろうか。去年受け持っていた担当の生徒はこんなんでは無かったから心配だ。



｢ほら、起きなさいって、｣

｢…眠いんですもん、長谷川せんせー｣

｢頑張れよ、高校3年生｣

｢うるさいよ、大学3年生｣



ねえ、私はあなたが心配なのよ？

だからそんな悪戯っ子みたいな目で見つめちゃ、駄目。可愛くて許しちゃいそうになるから_____。







個別塾で講師のアルバイトを初めて2年と半年。最近担当についた田中樹くんは、私にとって初めての男の子の生徒である。


性格のせいか何なのか、今まで授業を持っていた生徒は皆女の子だったから彼との授業は新鮮で。

なんかもう、可愛い弟分ができた気分なのだ。


何してても可愛いし、進路の相談してくるだけでなんか胸がジンとする。彼は受験生だし私も頑張りたいって気持ちもあるし、思い入れはかなり強いかもしれない。


別に贔屓とかではないのだ。生徒は皆可愛い。

けど、今年の高3生は彼だけだし、ちょっと熱が入ってしまうのは仕方がないと思うのだ。

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