136話 審判 ページ21
片手に二枚の紙。
心做しか軽快な足取りのAに素性も事情も知らない廊下を歩いていた生徒は不思議そうにAを見た。
もちろん向かっている場所は凛の教室だ。
少し前に無理矢理取り付けたテストの点数を賭けた勝負をするためである。
Aの方から行かなければ、あいつのことだ、凛はすぐに逃げるだろう。
「りーん！！あっ、おい逃げんじゃねえよ！！」
入口あたりで声をかければ席に座ってどこか遠くを眺めていた凛は脊髄反射の如くAを避けて教室を出ていこうとする。
Aが大人しく逃がすはずがなく追いかけて襟首を掴んだ。
「おい、離せ」
「いやでーす。ねえねえ、数学と英語返ってきた？」
「……」
「無言は肯定とみなしまーす。ちなみに俺は数学と歴史でーす」
襟首を離すとこれでもかというほど訝しげに睨まれたので軽く脛を蹴った。
だが苛立たせる材料にしかならず頭を殴られる。
「アタリが強い！！」
「何で来たんだよ」
「それ本気で聞いてる？」
馬鹿らしく思いつつも諸々の説明をすると凛は形のいい眉をさらに歪めて盛大に舌打ちをした。
一々傷ついてはキリがないので彼なりの照れ隠しだとAは考え、薄ら笑みを浮かべる。
「何笑ってんだ気持ち悪りい」
「とりあえずテスト持って小ホール行こうぜ」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
昼食をとりがてらAは自信ありげにテストを広げた。
凛がこれほどまでになく乗り気ではないのはAの頭脳を知っているからだろう。
Aには愉快なお遊びだろうが凛にとっては不毛で時間の無駄でしかない。
お前は時計か、と突っ込みたくなるほど舌打ちばかりし、コツコツと指でテーブルを叩き、地震が起きる勢いで貧乏揺すりをしている。
そんな凛の反応も面白くて大声で笑いたくなるのを堪え、昼食そっちのけで上々気分になった。
「楽しいかよ、こんなことして」
Aとは真逆の凛の声音はどこか沈んでいて子供のように拗ねているようだった。
あえて気づかないフリをして口角を上げて言う。
「うん。楽しい」
テーブルの上を軽く整え紙を叩きつける。
添削済みのその紙は少し赤い斜線が多かった。
「はいじゃーん！歴史74点です！！凛は？」
「勝手にしろ」
諦めたのか呆れたのか自暴自棄になってAにテスト用紙を渡した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 457人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
モヨモヨ(プロフ) - 簡潔おめでとうございます！！！マジですきだ！！きまさんの文でしか得られない栄養が、ある。言葉選びが毎度素敵だし、なにより表現のしかたがドストライクすぎる。すき 小説を書いてくれてありがとう。きまさんも小説も大好きだ……更新お疲れ様でした！ (1月3日 1時) (
レス) @page48 id: 3d85c557d8 (このIDを非表示/違反報告)
コン(プロフ) - 初コメ失礼します！完結おめでとうございます！！主人公と凛ちゃんの関係の移り変わり方が好きすぎて何回も読み返しました。ずっとドキドキしながら読んでいました！本当に大好きな作品です！完結したのは正直悲しいですが素敵な作品をありがとうございました！！ (12月31日 20時) (レス) id: 367d94bba3 (このIDを非表示/違反報告)
にんじゅん(プロフ) - はじめまして、初めてコメントします。貴方様の書く凛と男主の関係性がものすごく大好きです。男主くんの掴めそうで掴めない距離感のもどかしさだったり、凛のほろ苦い心情が読んでいて「はぁ〜っ……！」とキュンとします。これからも続きを楽しみにしております。 (6月30日 22時) (レス) id: 9723d369eb (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - リアムさん» コメントありがとうございます！個人的に凛ちゃんさんを書くの苦手なので続きが気になる展開にできて嬉しゅうございます！ぶっ倒れない程度に更新頑張ります！！ (6月18日 19時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
リアム(プロフ) - 凛！一体どうしたんだ〜！続きが気になるので、楽しみにしています！無理のない範囲で更新頑張ってください！ (6月17日 9時) (レス) @page32 id: 5aa1bb0c09 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：殺痲(キルマ) | 作成日時：2023年4月12日 22時
