120話 誰? ページ3
インタビュアーの質問に特に緊張することなく小さく間の抜けた声で反応する誰か。
心臓が一際大きく脈打った気がする。
薄れかけていた記憶が濃く蘇って頭の中で流れた。
もしかしたら名前が同じだけで俺の知っているAではないかもしれない。
「目標ですか!?なんだろ……」
吃り気味になって返答に迷うその声はあの日聞いたあどけない声とは違って低くなっていたが、それでも誰なのかすぐにわかった。
「とりあえず頑張りたいです……」
照れくさそうにはにかんだその姿にどうしようもなく嬉しくなる。
Aだ。
どうしよう、今行ったら流石にまずいか?
でもAと話したい。話したいことたくさんある。
あ、何話せばいいんだろ。
そもそも俺のこと覚えてっかな。
覚えてなかったらどうしよ、A気づいてくれっかな。
長い立ち話が終わったとわかった否や早々に帰ろうと急かす父親を無視し、すぐさまAを追いかけた。
「なあ、待てってば!」
振り返ったAは他人事のように自分を指差した。
話したいことが山ほどあったはずなのに間近でAの顔を見た時、真っ白に消え失せた。
口から出た声は情けなかった。
「俺のこと、覚えてる……?」
恐る恐るそう尋ねると、上を向いて考える素振りを見せたAに期待と緊張で拍動が早くなる。
「誰?」
刺されるような鋭い痛みが体を走った。
先程の柔らかい雰囲気の面影すらない冷たい視線に肌が粟立った。
「俺だよ、俺!玲王!御影玲王!!ガキの頃よく遊んだじゃん!」
「れお?れお……みかげ、れお……」
ゆっくりと俺の名前を咀嚼し、記憶を辿るAにますます緊張する。
「もしかしてあの玲王?」
「どの玲王……?」
「迷子の金持ち坊ちゃん!!」
「複雑だけど俺がその坊ちゃん!!」
剥き出しだった警戒心が一気に緩んで、固まっていた表情が綻ぶ。
「うっそお!!めっちゃ久しぶりじゃん!!元気してた?」
「フツー」
「背もデカくなってっからわかんな……。デカくはないか」
「おい」
この時はまだAの方が背丈があった。
だがAに見下ろされたのはこれっきりだ。
「つーかなんでいんの?」
「父さんの付き添い。お前は?」
「俺ここでボルダリングやってんの」
早くも話題が尽きて沈黙が流れた。
何か話さなければ、と謎の使命感に駆られたがAの方が先に口を開いた。
「元気?」
「それさっき聞いたろ」
どこか抜けているところは全く変わっていなかった。
457人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
モヨモヨ(プロフ) - 簡潔おめでとうございます!!!マジですきだ!!きまさんの文でしか得られない栄養が、ある。言葉選びが毎度素敵だし、なにより表現のしかたがドストライクすぎる。すき 小説を書いてくれてありがとう。きまさんも小説も大好きだ……更新お疲れ様でした! (1月3日 1時) (レス) @page48 id: 3d85c557d8 (このIDを非表示/違反報告)
コン(プロフ) - 初コメ失礼します!完結おめでとうございます!!主人公と凛ちゃんの関係の移り変わり方が好きすぎて何回も読み返しました。ずっとドキドキしながら読んでいました!本当に大好きな作品です!完結したのは正直悲しいですが素敵な作品をありがとうございました!! (12月31日 20時) (レス) id: 367d94bba3 (このIDを非表示/違反報告)
にんじゅん(プロフ) - はじめまして、初めてコメントします。貴方様の書く凛と男主の関係性がものすごく大好きです。男主くんの掴めそうで掴めない距離感のもどかしさだったり、凛のほろ苦い心情が読んでいて「はぁ〜っ……!」とキュンとします。これからも続きを楽しみにしております。 (6月30日 22時) (レス) id: 9723d369eb (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - リアムさん» コメントありがとうございます!個人的に凛ちゃんさんを書くの苦手なので続きが気になる展開にできて嬉しゅうございます!ぶっ倒れない程度に更新頑張ります!! (6月18日 19時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
リアム(プロフ) - 凛!一体どうしたんだ〜!続きが気になるので、楽しみにしています!無理のない範囲で更新頑張ってください! (6月17日 9時) (レス) @page32 id: 5aa1bb0c09 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年4月12日 22時