128話 あったかい ページ13
そう言うとAは悪戯っぽく笑った。
どぎまぎしていると、暖かい手の感触が伝わる。
髪を掬ったかと思えば、しっとりとした柔らかさのないその手は凛の髪を撫でた。
「ふぇ」
思ってみなかったAの行動にお得意の暴言が出るどころか、子供のような情けない間の抜けた声が漏れる。
ゆっくりと優しく撫でるAの手は皮が分厚くなっていて心地のよい感触とは言えないが、幼少期以来、撫でられることがなかった凛にとってそれはあまりにも刺激的だった。
「言ってくれなきゃわかんないよ。って言えるわけないかー」
一方、Aは余裕を持て余しているかの如く、平然としながら笑っている。
撫でてくる手すら振り払えず、されるがままに温かな手の感触を味わった。
「やめ、ろ」
だがそれなりに羞恥心があったのか緩慢な動きで振り払う。
その手つきに嫌悪感は一切見られなかった。
「えー、褒めてほしかったんじゃないの?」
「そんなんじゃねえよ」
心外そうに凛を見つめる。
そっぽを向いて頬杖をついている凛はいかにも不機嫌な雰囲気を醸し出しているように見えたが垣間見える白い肌がほんのり赤く染まっているのを見て満更でもないのだと察した。
「素直に嬉しいって言えよ〜」
隙あり!と大声を出すと、起き上がって後ろから奇襲を仕掛ける。
さらに近くまで寄ったせいか体の密着度が高まった。
艶やかな濡羽色の髪を乱雑に撫でる。
「離せよクソが!!調子乗んな!!殺すぞ!!」
「よーしよし、ちゃんと自分で勉強してえらいねえ。Aくんがよしよししてあげようねえ」
「死ね!!!!」
完全にAの手の上で転がされる凛があまりにも面白くて、思わず声を上げて笑う。
口では酷くAを罵っているくせに、肝心の手が出てこない。
そのせいでAに対する暴言もただの照れ隠しにしか感じられない。
砂粒ほどの大きさで残っている凛なりの優しさか、それとも突如として起こった甘やかしに満更でもなく抵抗できないのか。
改めて凛が取ったとは到底思えない点数を実感する。
「ほんとすごいよ。どうしちゃったの、80点いくとか。びっくりし……」
ようやっと離れたかと思えば、次は突然黙って言葉を途切れさせた。
Aの様子に特に気にすることなく、凛は盛大に舌打ちをすると絡まった髪を直す。
「あのう、非常に申しにくいのですが……」
「何だ」
「ここの問題、間違ってんのに丸ついてる」
Aはめのまえがまっくらになった!
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モヨモヨ(プロフ) - 簡潔おめでとうございます!!!マジですきだ!!きまさんの文でしか得られない栄養が、ある。言葉選びが毎度素敵だし、なにより表現のしかたがドストライクすぎる。すき 小説を書いてくれてありがとう。きまさんも小説も大好きだ……更新お疲れ様でした! (1月3日 1時) (レス) @page48 id: 3d85c557d8 (このIDを非表示/違反報告)
コン(プロフ) - 初コメ失礼します!完結おめでとうございます!!主人公と凛ちゃんの関係の移り変わり方が好きすぎて何回も読み返しました。ずっとドキドキしながら読んでいました!本当に大好きな作品です!完結したのは正直悲しいですが素敵な作品をありがとうございました!! (12月31日 20時) (レス) id: 367d94bba3 (このIDを非表示/違反報告)
にんじゅん(プロフ) - はじめまして、初めてコメントします。貴方様の書く凛と男主の関係性がものすごく大好きです。男主くんの掴めそうで掴めない距離感のもどかしさだったり、凛のほろ苦い心情が読んでいて「はぁ〜っ……!」とキュンとします。これからも続きを楽しみにしております。 (6月30日 22時) (レス) id: 9723d369eb (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - リアムさん» コメントありがとうございます!個人的に凛ちゃんさんを書くの苦手なので続きが気になる展開にできて嬉しゅうございます!ぶっ倒れない程度に更新頑張ります!! (6月18日 19時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
リアム(プロフ) - 凛!一体どうしたんだ〜!続きが気になるので、楽しみにしています!無理のない範囲で更新頑張ってください! (6月17日 9時) (レス) @page32 id: 5aa1bb0c09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年4月12日 22時