119話 君がいないと ページ2
互いの父親が学生時代の知り合いだったということもあってAとはあの日を境にちょくちょく会うようになった。
パーティーに誰を招待したいか。
金と権力にまみれた顔色を窺うだけの退屈なパーティーに選んだのはもちろんあいつで。
「A」
次の休みの旅行はどこに行きたいか。
透き通る青の海が見える海外でもなく、もはや観光地でもない至って普通のみすぼらしい一般家庭で。
「Aのいえ」
今思えばわがままで生意気な迷惑極まりない子供だったかもしれない。
それでも嫌な顔一つせず遊び相手になってくれたのが嬉しくてAに甘えていた。
いないことに慣れていると思っても感じてしまう両親がいない寂しさ。
自然に接してもどこか隔たりを感じる子供同士の他愛もない会話。
埋まることのないぽっかりと空いた寂しさの穴がAといるときだけは満たされていて、何もかも忘れられた。
時間が終わりに近づけば、満たされていたはずの心は誰かに飲み干されたように徐々に削られて、また穴を作る。
その時の気持ちは言葉に表せられないほど虚しい。
満たされては失い、満たされては失い、その繰り返し。
いつの日か遊び疲れてあの黒い革張りのソファで眠ってふと目を覚ませば、Aがいる。
隣に誰かがいるのは心地いい。
一人じゃないと実感できるし、何より人の温もりを感じることができるから。
誰がかけてくれたのか、柔らかいブランケットに包まれながら隣で眠るAの顔を見て初めてわかった。
俺はAが好きなんだって___
その時はまだ確信なんてなかった。
ぼんやりと子供が戯れ程度に思う軽く小さな感情。
どちらかといえばずっと一緒にいたいという欲だったかもしれない。
だが子供と言えど、頻繁に会えるわけではなかった。
年齢を重ねるごとに段々と会う回数も少なくなって、やがて会うことは皆無に等しくなった。
忘れかけていた頃、父親の付き添いであるスポーツジムに向かった。
父親の長い立ち話に度々巻き込まれ当たり障りのない返しをして、愛想笑いにも飽きてきた頃、どこからか聞き馴染みのある名前が聞こえた。
「Aさん、フューチャーカップで見事優勝されましたが何か今後の目標はありますか?」
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モヨモヨ(プロフ) - 簡潔おめでとうございます!!!マジですきだ!!きまさんの文でしか得られない栄養が、ある。言葉選びが毎度素敵だし、なにより表現のしかたがドストライクすぎる。すき 小説を書いてくれてありがとう。きまさんも小説も大好きだ……更新お疲れ様でした! (1月3日 1時) (レス) @page48 id: 3d85c557d8 (このIDを非表示/違反報告)
コン(プロフ) - 初コメ失礼します!完結おめでとうございます!!主人公と凛ちゃんの関係の移り変わり方が好きすぎて何回も読み返しました。ずっとドキドキしながら読んでいました!本当に大好きな作品です!完結したのは正直悲しいですが素敵な作品をありがとうございました!! (12月31日 20時) (レス) id: 367d94bba3 (このIDを非表示/違反報告)
にんじゅん(プロフ) - はじめまして、初めてコメントします。貴方様の書く凛と男主の関係性がものすごく大好きです。男主くんの掴めそうで掴めない距離感のもどかしさだったり、凛のほろ苦い心情が読んでいて「はぁ〜っ……!」とキュンとします。これからも続きを楽しみにしております。 (6月30日 22時) (レス) id: 9723d369eb (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - リアムさん» コメントありがとうございます!個人的に凛ちゃんさんを書くの苦手なので続きが気になる展開にできて嬉しゅうございます!ぶっ倒れない程度に更新頑張ります!! (6月18日 19時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
リアム(プロフ) - 凛!一体どうしたんだ〜!続きが気になるので、楽しみにしています!無理のない範囲で更新頑張ってください! (6月17日 9時) (レス) @page32 id: 5aa1bb0c09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年4月12日 22時