糸師凛、勉強はレッドカード【3】

80話 矛盾 ページ9

Aは思った。

今、目の前にいる男は少女漫画から飛び出してきたのか？と。

自分がどれほど酷い顔を晒しているかはわからない。

だが、何食わぬ顔で澄ました顔をしている凛はずっとこちらを見ている。

何か言おうとしても口は死にかけの魚のようにはくはくと動くだけで言葉という言葉は出てこない。

既に緊張は解けているが、それは安心からきたものではなく凛の言葉によるものだった。

連絡を待っているのはAだけ？

Aって誰だ。あ、俺か。

その一言に目を白黒させている自分がいる。

刺すように冷たかった凛の声音は一瞬で慈しむかのようなひどく優しい声に変わった。

普段の凛からは想像できない柔らかく透き通った声はいつまでも響いている。

野郎にこんなキザなことを言うなら恋する乙女に言ってもらいたい。

お前に言われて吐血する勢いで喜ぶ女子はごまんといるはずだから。

「どうしちゃったのさ……。凛らしくない……」

困惑するAをよそに凛はやりきったと言わんばかりに堂々としている。

「ブロックとか番号変えればよかったんじゃないんスかね……」

余計な一言かもしれないがこの行き場のない感情を無くすには何かしら言って紛らわすしか方法はなかった。

「……」

露骨に嫌な顔をする。

真っ白な眉間に不釣り合いな皺が再び刻まれた。

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す